小児がん(主に15歳未満)は、放射線治療において最も慎重な判断が求められる。 なぜなら、子供の体は「絶賛成長中」だからだ。がんを殺すことができても、その後の成長を止めてしまったり、数十年後に別のガン(二次発がん)を引き起こしては、本当の意味での勝利とは言えない。
本ページでは、小児がんに特有の「集学的治療」と、技師国試の最重要項目である「全身照射」のロジックを解き明かす。
第1章:小児腫瘍の絶対ルール 〜「治す」の先にある「育てる」〜
小児がんは、大人のがん(生活習慣病としての側面が強い)とは異なり、発生そのものに「胎児期の細胞の残り」や「遺伝的要因」が強く関わっている。
1. 治療の基本は「集学的治療」
小児がんは、細胞分裂が盛んで放射線や抗がん剤が非常によく効く(感受性が高い)ものが多い。そのため、手術だけで終わることは少なく、「手術 + 化学療法 + 放射線治療」の3つを組み合わせる集学的(しゅうがくてき)治療が標準となる。
2. 晩期障害への「超」配慮
子供の組織はベルゴニー・トリボンドーの法則通り、放射線に対して非常に敏感だ。
- 成長への影響: 骨の成長点(骨端線)に当たると、骨が伸びなくなり、身長が止まったり体が歪んだりする。
- 二次発がん: 治った数十年後に、照射した場所から別のがんが発生するリスクが大人より高い。 これを防ぐため、小児の放射線治療では「できるだけ範囲を絞る」「必要最小限の線量にする」という極めて精密なプランニングが求められる。
第2章:小児白血病と全身照射(TBI) 〜なぜ「全身」に当てるのか〜
小児がんで最も多いのが白血病である。血液のがんであるため、治療の主体は化学療法だが、**造血幹細胞移植(骨髄移植)**を行う際には、放射線技師が主役となる「全身照射」が行われる。
1. 全身照射(TBI:Total Body Irradiation)の3つの目的
「全身に当てるなんて、被ばくが怖くないのか?」と思うかもしれない。しかし、これには移植を成功させるための決定的な理由がある。
- がん細胞の根絶: 全身の隅々に潜んでいる白血病細胞を、放射線で一掃する。
- 免疫抑制(拒絶反応の防止): 移植された他人の細胞を、患者の免疫が「異物」として攻撃しないように、あらかじめ免疫をゼロにする。
- ドナー細胞の「席」を作る: 患者の古い骨髄細胞を壊して、新しい細胞が入り込むためのスペースを空ける。
2. 【国試の急所】なぜ「肺」を遮蔽し、「分割」して当てるのか
TBIは通常の治療とは違い、全身に均一に当てる必要がある。ここで技師が最も注意するのが**「肺」**の保護だ。
- 肺の遮蔽(しゃへい): 肺は放射線に弱く、全身と同じ線量を当てると「放射線肺炎」で命を落とす危険がある。そのため、鉛のブロックなどで肺に当たる線量を10Gy程度に抑える工夫をする。
- 分回照射(1日2〜3回、数日間): 一気に大線量を当てると副作用が強すぎるため、回数を細かく分ける。これにより、がん細胞へのダメージは維持しつつ、正常な肺や内臓の回復を促すことができる。
3. 予防的頭蓋(ずがい)照射
小児白血病では、脳脊髄液にがん細胞が逃げ込むのを防ぐため、治療の初期に脳全体に放射線を当てる「予防的頭蓋照射」が行われることがある。 ※ただし、近年は子供の脳への成長影響(知能低下など)を考慮し、抗がん剤の髄注(背中に薬を打つ)に切り替わりつつあるという時代の流れも押さえておこう。
第3章:固形腫瘍の横綱 〜ウィルムス腫瘍と神経芽細胞腫〜
子供の内臓にできる「固形がん」の中で、国試に最も出るのが腎臓のウィルムス腫瘍と、神経の神経芽細胞腫だ。この2つはセットで、かつ「大人のがん」と比較しながら理解するのが鉄則だ。
1. ウィルムス腫瘍(腎芽腫):大人との「逆転現象」に注目
子供の腎臓にできる悪性腫瘍だ。
- 【国試の急所:感受性の違い】 「泌尿器・生殖器(特化ページ⑥)」でも触れたが、大人の腎細胞がんは放射線が効かない(抵抗性)。しかし、ウィルムス腫瘍は放射線が非常によく効く(高感受性)。この対比は、病態学・治療学の両方で狙われる。
- 治療: 早期の外科手術(摘出)が基本だが、取り切れない場合や進行期には術後照射を行う。
【思考ポイント:なぜ副作用で「側弯症(そくわんしょう)」が起こるのか?】 これが小児ならではの重要ポイントだ。
ウィルムス腫瘍は片方の腎臓にできるため、放射線も片側に寄せて当てる。すると、照射された側の「脊椎(背骨)の成長点」だけがダメージを受けて伸びが悪くなる。一方で、当たっていない反対側はグングン成長するため、背骨の伸びに左右差が出て、体が横に曲がってしまう(側弯症)。 これを防ぐため、現代では「椎体を均等に含めて照射する」などの工夫がなされている。
2. 神経芽細胞腫(しんけいがさいぼうしゅ):奇跡の「1歳未満」
副腎や交感神経節から発生する腫瘍だ。
- 治療: 化学療法(JAMES法など)や手術、重症なら術後照射を組み合わせる総力戦となる。
- 【:1歳未満の予後良好】 普通、がんは「進行すればするほど予後が悪い」のが常識だ。しかし、神経芽細胞腫には**「1歳未満で発症した場合は、たとえ転移があっても自然に消えたり(自然退縮)、良性化したりして治りやすい」**という不思議なルールがある(ステージ4Sと呼ばれる特殊な状態)。
第4章:その他の小児固形腫瘍
1. 横紋筋肉腫(おうもんきんにくしゅ)
- 特徴: 子供の「筋肉」から発生するタチの悪い腫瘍。
- 治療: 非常に進行が早いため、手術・抗がん剤・放射線をフル活用する「集学的治療」が必須。VAC療法(3種類の抗がん剤の頭文字)。
2. 網膜芽細胞腫(もうまくがさいぼうしゅ)
- 特徴: 赤ちゃんの「目(網膜)」にできるがん。瞳が猫のように白く光る(白色瞳孔)のが発見のきっかけになる。
- 治療: 昔は眼球摘出が多かったが、現代では「視力を守る」ために、放射線(外部照射や小線源)やレーザー治療を駆使して、目を残す治療が追求されている。

コメント