**【がん・腫瘍病態学⑤】**胸部がん(肺・胸腺・中皮腫):組織型で完全に分かれる「治療の分岐点」

肺がんは日本人男性の死亡原因1位(女性は2位)であり、罹患率も非常に高い、まさに国民病とも言えるがんだ。 国家試験において肺がんを攻略する最大のカギは、**「肺がんは1つの病気ではなく、組織型によって全く違う病気として扱う」**という絶対ルールを理解することにある。

本ページでは、無機質なパーセンテージの暗記を捨て、「タバコの煙」と「細胞の性質」から肺がんの治療戦略を論理的に導き出す。

第1章:肺がんの組織型と「タバコ」の論理

肺がんの成因として最も有名なのは「タバコ(喫煙リスク約6倍)」だが、すべての肺がんがタバコと強く結びついているわけではない。 まずは、肺がんを大きく3つの組織型に分け、それぞれの「発生場所(奥か手前か)」と特徴を押さえよう。

1. 腺癌(せんがん):肺の「奥」にできる女性の敵

  • 割合: 肺がんの約50%(最も多い)。女性の肺がんでは**70%**を占める。
  • 特徴: タバコとの関係は希薄(薄い)
  • 【思考ポイント】 腺癌は、肺の奥深くの細い気管支(末梢)に発生しやすい。タバコの煙が直接ガンガン当たる場所ではないため、非喫煙者の女性にも多く発生するのだ。

2. 扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん):タバコの煙の「直撃」

  • 割合:30%
  • 特徴: タバコとの関係が極めて濃厚
  • 【思考ポイント】 消化器(食道)のページで学んだ通り、扁平上皮は「物理刺激(摩擦など)」から身を守るための組織だ。肺の入り口(肺門部)に太いタバコの煙が直撃し続けることで、正常な細胞が扁平上皮に変化(化生)し、そこからがん化する。だからタバコと強烈にリンクするのだ。

3. 小細胞癌(しょうさいぼうがん):増殖スピード最強の悪魔

  • 割合:15%
  • 特徴: タバコとの関係が極めて濃厚
  • 【思考ポイント】 神経内分泌細胞から発生する特殊ながん。最大の特徴は**「異常な増殖スピード」「早期からの全身転移」**である。見つかった時にはすでに全身の血液に乗ってバラまかれているため、最も予後が悪い(タチが悪い)組織型である。

第2章:治療戦略の完全分岐 〜非小細胞 vs 小細胞〜

ここが放射線技師国家試験の超・最重要ポイントだ。 肺がんの治療は、「小細胞癌」か、それ以外(腺癌や扁平上皮癌をまとめた「非小細胞癌」)かによって、ルートが完全に二分される。

ルートA:非小細胞肺癌の治療(腺癌・扁平上皮など)

がん細胞がひとかたまりになっていることが多いため、基本は「物理的に取り除く・焼き切る」アプローチとなる。

  • 第一選択: 手術(外科的に切り取る)。
  • 【国試頻出】末梢型 I期:定位放射線治療(SBRT)
    • [思考ポイント] 肺の奥深く(末梢)にできた初期(I期)の小さな腺癌などは、心臓や太い血管から離れているため、多方向から放射線をピンポイントで集中させる「定位放射線治療(ピンポイント照射)」が極めて有効である。手術と同等の成績が出せる。
  • 手術不能な局所進行がん:化学(シスプラチン)放射線療法
    • 抗がん剤(シスプラチン)と放射線を同時に行い、叩き潰す。

ルートB:小細胞肺癌の治療(増殖スピードとの戦い)

すでに全身に散らばっている(進展型:ED)か、片肺に留まっている(限局型:LD)かで分かれるが、基本は手術不能である。

  • 治療の主役: 化学放射線療法(ケモラジ)
  • 【国試頻出①】一日多分割照射(加速過分割照射)
    • [思考ポイント] 小細胞癌は増殖スピードが速すぎるため、1日1回悠長に放射線を当てていては、翌日には増えて逃げられてしまう。だから、**「1日2回(朝・夕)」**当てて、がんが回復する隙を与えずに一気に叩きのめすのだ。
  • 【国試頻出②】予防的全脳照射(PCI)
    • 初期治療でがんが完全に消えた(CR)としても、必ずこれを行う。
    • [思考ポイント] なぜ脳にだけ予防照射するのか? 抗がん剤は全身に効くが、脳には「血液脳関門(バリア)」があるため薬が届かない。そのため、小細胞癌の生き残りが**「脳に逃げ込んで後から爆発的に再発する」**ことが多いのだ。それを防ぐために、あらかじめ脳全体に放射線を当てておく(PCI)のである。

第3章:胸腺腫と中皮腫(その他胸部のがん)

最後に、肺以外の胸部腫瘍のキーワードを押さえておこう。

1. 胸腺腫(きょうせんしゅ)と胸腺癌

  • 胸骨の裏側にある「胸腺」から発生する。
  • 胸腺腫の治療: I〜III期は手術が第一選択。II〜III期(少し広がっている)場合は、再発を防ぐために術後照射を行う。
  • 胸腺癌: 胸腺腫より悪性度が高く、集学的治療(総力戦)が必要となる。

2. 中皮腫(ちゅうひしゅ)

  • 肺を包む膜(胸膜)や腹膜から発生する、発生率1%ほどの稀な腫瘍。
  • 【国試の絶対キーワード】原因:アスベスト(石綿)
    • [思考ポイント] 昔の建築現場などで吸い込んだ細かいアスベストの針が、数十年かけて胸膜に刺さり続け、がん化させる。肺がんとの合併も多い。

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