第1章:自発核分裂と誘導核分裂(トンネル効果の罠)
放射線技師の国家試験において、「核分裂」は物理学と化学のちょうど境界線に位置する重要テーマです。核分裂には、大きく分けて自発核分裂と誘導核分裂の2つのパターンが存在します。まずはその違いと、物理的なメカニズムをスッキリ整理しましょう。
1-1. 自発核分裂とトンネル効果
自発核分裂とは、外部から何も刺激を与えていないにもかかわらず、重い原子核が文字通り「勝手に(自発的に)」パカッと2つに割れてしまう現象です。
本来、原子核が分裂するためには、エネルギーの壁(核分裂障壁)を乗り越える必要があります。しかし、量子力学の世界では、本来乗り越えられないはずのエネルギーの壁を、まるでトンネルを掘って通り抜けるかのようにすり抜けてしまう現象が起こります。これをトンネル効果と呼びます。
国試の文章択一問題では、以下のような組み合わせが非常によく狙われます。
- アルファ(α)壊変 = トンネル効果によって起こる
- 自発核分裂 = トンネル効果によって起こる
「アルファ壊変と自発核分裂は、どちらもトンネル効果の仕業である」とセットで頭に叩き込んでおきましょう。
1-2. 誘導核分裂
一方、医療用の放射性同位元素(RI)を作ったり、原子力発電に利用されたりする核分裂のほとんどは誘導核分裂です。
これは、親燃料物質(ウランなど)に対して、外部から中性子をぶつける(吸収させる)ことで、無理やり原子核を不安定にさせて分裂を「誘導」する現象です。
その反応をシンプルなイメージ図(関係式)で表すと、以下のようになります。
$$
\text{親燃料物質} + \text{中性子} \rightarrow \text{核分裂生成物} + \text{中性子} + \text{大きなエネルギー}
$$
外から中性子が1個飛び込んでくることで核分裂が起き、その結果として新しい放射性物質(核分裂生成物)が生まれると同時に、さらに別の中性子が数個飛び出してくる、というのが大きな特徴です。
第2章:ウラン235とウラン238の決定的な違い
国家試験の文章択一問題で、受験生が最もゴチャゴチャになりやすいのがウラン235(235-U)とウラン238(238-U)の性質の違いです。
どちらも同じウランの同位体ですが、「どんな中性子をぶつけたときに核分裂を起こすか」が全く異なります。ここを現役技師の視点でスッキリ整理しましょう。
2-1. ウラン235(235-U)は「熱中性子」で分裂する
ウラン235は、エネルギーが非常に低い(=速度が遅い)熱中性子を吸収したときに、とても高い確率で核分裂を起こします。
熱中性子とは、周囲の原子の熱運動と同じくらいのエネルギー(約 0.025 eV)しか持たない、いわば「おっとり進む中性子」です。
ウラン235の原子核はもともと非常に不安定になりやすいため、スピードの遅い中性子がゆっくりと近づいてきて、原子核に「フワッ」と吸収されるだけで、その刺激に耐えきれずにパカッと分裂してしまいます。原子力発電所で燃料として主に使われているのは、このウラン235です。
2-2. ウラン238(238-U)は「速中性子」で分裂する
一方、自然界に存在するウランのほとんど(約 99.3%)を占めるウラン238は、エネルギーの高い(=速度が非常に速い)速中性子をぶつけないと核分裂を起こしません。
速中性子とは、核分裂が起きた直後に飛び出してくるような、1 MeV 以上の凄まじいエネルギーを持った「超高速の中性子」です。
ウラン238の原子核はウラン235に比べて比較的どっしりと安定しているため、遅い中性子が当たっても無視してしまいます。ものすごいスピードとエネルギーを持った速中性子が「ガツン!」と激しく衝突して初めて、その衝撃で核分裂が誘導されます。
2-3. 国試を解くための暗記ロジック
国試本番の緊張感のなかで「どっちが熱中性子で、どっちが速中性子だっけ…?」と迷わないために、以下の関係性を丸暗記してしまいましょう。
$$
\text{ウラン235} \rightarrow \text{熱中性子(遅い)}
$$
$$
\text{ウラン238} \rightarrow \text{速中性子(速い)}
$$
覚え方のコツとして、質量数の数字に注目するテクニックがあります。
- 数字が小さいウラン235 = スピードが遅い熱中性子
- 数字が大きいウラン238 = スピードが速い速中性子
このように「数字の大小」と「スピードの遅速」をリンクさせておけば、本番でのひっかけ問題にも一瞬で気づくことができます。
第3章:即発中性子と遅発中性子の違いと核分裂収率の秘密
ウランなどが核分裂を起こすと、莫大なエネルギーと一緒に中性子が数個飛び出してきます。この中性子は、放出されるタイミングによって即発中性子と遅発中性子の2種類に分類されます。それぞれの違いと、国試で問われる核分裂の「形」について学びましょう。
3-1. 2つの中性子の決定的な違い
核分裂によって生まれる中性子は、出るタイミングによって以下のように名前がついています。
- 即発中性子:核分裂が起きた直後(10のマイナス14乗秒以内という一瞬)に、その場ですぐに放出される中性子。
- 遅発中性子:核分裂が起きたあと、生まれた核分裂生成物がさらに壊変していく途中で、やや遅れて(数秒〜数分後)放出される中性子。
国試の文章択一問題では、この「直後」と「やや遅れて」というキーワードが入れ替えられて出題されるため、言葉の意味をそのままストレートに覚えておけば確実に1点をもぎ取ることができます。
3-2. 核分裂収率のグラフに隠された秘密
ウランが熱中性子を吸収して分裂するとき、1つの大きな原子核が「綺麗に真っ二つ(正確に半分の重さ)」に割れることはほとんどありません。実は、少しだけ重いグループと、少し軽いグループの「非対称」に割れる確率が最も高いのです。
この割れる確率のことを核分裂収率と呼びます。質量数を横軸、収率を縦軸にしてグラフを描くと、真っ二つに割れる真ん中の確率がベコッと凹み、左右に2つの山ができる「カモメの羽(M字型)」のようなグラフになります。
国家試験では、この2つの山のてっぺん(極大値)がどこにあるかがピンポイントで数字で狙われます。
$$
\text{核分裂収率の極大} \rightarrow \text{質量数 95 付近 と 138 付近}
$$
- 軽い方の山:質量数 95 付近(ストロンチウム90などが含まれるグループ)
- 重い方の山:質量数 138 付近(セシウム137などが含まれるグループ)
「核分裂は非対称に割れるから、山が2つできる」「その数値は95と138である」という2つの事実をセットで暗記しておきましょう。
3-3. 【神ゴロ】核分裂収率の数値を一発暗記!
国試で狙われる質量数「138」と「95」ですが、数字をそのまま覚えようとすると本番でごちゃ混ぜになってしまいます。そこで、以下の最強の語呂合わせで脳内に叩き込みましょう!
- 138 = (意味は 138)
- 95 = (空港 95)
ウランがパカッと割れて飛び出してきた核分裂生成物たちが、「空港(138・95)」から一斉に飛行機で飛び立っていくようなイメージを持ってみてください。
この語呂合わせさえ頭にあれば、選択肢に「質量数 110」や「質量数 125」といったひっかけの数字が並んでいても、一瞬で「違う、極大値は空港(138と95)だ!」と見抜くことができます。

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