MRIの画像試験を攻略する最大のコツは、各アーチファクトが「位相エンコード方向」と「周波数エンコード方向」のどちらに出現するかを完璧に区別することです。
まずは、国試で最も狙われる「位相エンコード方向にしか発生しない」代表的なアーチファクトのロジックから紐解いていきましょう。
第1章:折り返しアーチファクト(エイリアシング)の完全理解
1. 発生原因と「なぜ位相方向に折り返すのか」のロジック
- 発生原因: 撮像したい視野(FOV:Field of View)よりも、患者の体(被写体)のサイズの方が大きい場合に発生します。FOVの「外側」にはみ出た組織の信号が、位相エンコード方向の反対側にぐるっと回り込んで、画像に重なってしまいます。
- 物理ロジック(なぜ起こるのか?):
- 周波数エンコード方向は、連続的なアナログ信号として非常に細かくサンプリングするため、基本的には折り返しは起こりません。
- 一方、位相エンコード方向は、位置を特定するために「位相の回転角度(0°〜360°)」を利用しています。MRIの計算機(フーリエ変換)は、「すべての信号は0°〜360°($-\pi$ 〜 $+\pi$)の間に収まっている」という前提で計算を行います。
- もし、FOVの外側に組織があると、そのプロトンの位相は360°を超えて、例えば「380°」や「400°」に回転してしまいます。
- すると計算機は、380°の回転を「$380^\circ – 360^\circ = 20^\circ$ の場所にある組織だ」と勘違いしてしまい、本来とは全く違うFOV内部の反対側の位置(20°の場所)にその組織を配置してしまうため、回り込み(折り返し)が発生します。
2. 国試に出る具体的な対策と「消える理由」
国試では「折り返しアーチファクトの対策はどれか」という選択肢が頻出します。単に丸暗記するのではなく、「なぜその対策で折り返しが防げるのか」という理由(ロジック)まで頭に叩き込んでください。
① FOV(視野)を広げる
- ロジック: 最も単純明快な方法です。被写体(患者の体)がFOVからはみ出しているのが原因なので、被写体全体がすっぽり収まるまでFOVを広くすれば、360°を超える位相変化が起きなくなり、折り返しは完全に消失します。ただし、マトリクス数がそのままだと空間分解能(画質)が低下するというトレードオフがあります。
② オーバサンプリング(No Phase Wrap / フェーズオーバーサンプリング)
- ロジック: 画質(FOVやピクセルサイズ)を変えたくない場合に用いる本命の技術です。
- 位相エンコードのサンプリング幅(データの細かさ)をあらかじめ通常の2倍にして撮影します。これにより、FOVの外側のプロトンも360°以内に収まるように広大なk空間(生データ空間)を確保します。撮影後、計算機の中で「はみ出た外側のデータ」をスパッと切り捨てて、目的のFOVだけを表示するため、折り返しが映らなくなります。
③ 位相エンコード数を増やす
- ロジック: 上記のオーバサンプリングと原理は近いです。位相エンコードのステップ数を増やす(マトリクス数を大きくする)ことで、サンプリングの間隔を細かくし、高周波の折り返し成分を正しく分離できるようにします。
④ FOV外側への「飽和パルス(プリサチュレーションパルス)」の印加
- ロジック: 非常に出題されやすいスマートな対策です。
- FOVからはみ出している(折り返してくる原因となる)左右や前後の組織に対して、撮影が始まる直前に強力なRFパルス(飽和パルス)を浴びせます。
- パルスを浴びた外側の組織は、磁化が飽和して「信号を一切出さない状態(真っ黒)」になります。信号がゼロになれば、たとえ計算上FOV内部に折り返して重なってきたとしても、画像には「真っ黒なもの」が重なるだけなので、実質的にアーチファクトは見えなくなります。
⑤ SENSEアルゴリズム(パラレルイメージング法)の利用
- ロジック: 複数の受信アレイコイル(マルチコイル)を並べて同時に撮影する技術です。
- 各アレイコイルは「そのコイルの近くにある組織の信号は強く拾い、遠くの信号は弱く拾う」という固有の感度分布を持っています。折り返しが起きて2つの組織が重なってしまっても、各コイルでの感度の違いをベースに、コンピュータが数学的な方程式を解くことで、重なった2つの信号を元の正しい位置へ分離・復元することができます。
⑥ 表面コイル(サーフェスコイル)の使用
- ロジック: ⑤の原理の応用です。表面コイルは、コイルの直下の狭い範囲の信号しか拾うことができません。つまり、「FOVの外側にある組織の信号を、物理的に最初から拾わない(感度外にする)」ことができるため、折り返しそのものが発生しなくなります。
第2章:モーションアーチファクト(ゴーストアーチファクト)
1. 発生原因と特徴的な見え方
- 発生原因: 撮影中の患者のあらゆる「動き」が原因になります。具体的には、患者の体動(眼球運動、唾を飲み込む嚥下運動)、呼吸運動、血管や脳脊髄液の拍動、心臓の拍動、腸管の蠕動(ぜんどう)運動などです。
- 出現方向: 必ず「位相エンコード方向」にのみ出現します。
- 特徴的な見え方: 動いた構造物(例えば眼球や拍動する大動脈)の影が、本物の画像の周りに等間隔で何個も並んで出現します。この幽霊のように並ぶブレを「ゴースト」と呼びます。
2. 【国試ロジック】なぜ「位相方向」だけに「等間隔」で出るのか?
国試でよく「体動によるアーチファクトは周波数方向に並ぶ」というひっかけが出ますが、これは間違いです。なぜ位相方向だけなのか、明確な理由があります。
- 理由①:データ収集にかかる時間の圧倒的な差
- 周波数エンコードは、1回のエコー信号を読み取る間の「わずか数ミリ秒(msec)」という一瞬でサンプリングを完了します。この一瞬の間に人間がマクロに動くことはほぼ不可能です。そのため、周波数方向にブレが並ぶことはありません。
- 一方、位相エンコードは、1周期(TR)ごとに位相エンコードステップの値を少しずつ変えながら、数秒〜数分という長い時間をかけて1ラインずつk空間(生データ空間)にデータを蓄積していきます。
- 理由②:k空間における規則的な「位相のズレ」
- データを1ラインずつコツコツ集めている最中に、呼吸や心拍などの「周期的な動き」が加わると、集まったk空間のデータに規則的な位相のズレ(振幅・位相の変調:モジュレーション)が記録されてしまいます。
- この規則的なズレを持ったk空間のデータを二次元フーリエ変換(画像化)すると、数学的な性質上、「位相エンコード方向に、動きの周期に応じた等間隔のゴースト」として展開されてしまうのです。
3. 国試に出る具体的な対策とロジック
「動きを止める・ごまかす・逃がす」という3つのアプローチから対策が組み立てられます。選択肢として選べるようにそれぞれのロジックを押さえましょう。
① 呼吸同期法 ・ 心拍同期法(動きを止める・合わせる)
- ロジック: 生体の周期的な動き(胸が膨らむタイミングや、心臓がドクンと打つタイミング)をセンサーで感知し、「動きが止まる一瞬」を狙って位相エンコードのステップを進める手法です。k空間のデータに規則的なズレが混入するのを防ぐため、ゴーストを劇的に抑制できます。ただし、生体のリズムを待って撮影するため、撮像時間は長くなります。
② 飽和パルス(プリサチュレーションパルス)の印加(信号を消す)
- ロジック: 第1章の折り返し対策でも登場した万能パルスです。
- 例えば、腹部撮影で「前腹壁(呼吸で上下する)」や「下大静脈・腹部大動脈(拍動する)」の場所に、あらかじめ強力なRFパルスをかけてその領域の磁化を飽和(真っ黒に)させておきます。
- 動いている大元の血管や組織の信号がゼロ(黒)になれば、k空間に変調をきたす元がなくなるため、位相方向に飛ぶゴースト自体が消滅します。
③ 流れ補正用の傾斜磁場(リフェーズ用の傾斜磁場 / フローコンペンセーション)
- ロジック: 主に血流や脳脊髄液などの「流体」によるモーションに有効です。
- 流れるプロトンは、傾斜磁場を浴びると一定の規則で位相がズレていきます。これをあらかじめ計算し、「ズレた位相を元通りにピタリと揃え直す(リフェーズさせる)ための特殊な傾斜磁場」を追加で印加します。これにより、流体由来の位相のバラつきがリセットされ、ゴーストが抑制されます。
④ 位相エンコード方向を変える(ゴーストを「逃がす」)
- ロジック: アーチファクトを消すのではなく、「診断の邪魔にならない場所へ追いやる」という非常に臨床的な国試頻出テクニックです。
- 具体例: 頭部MRIで眼球運動によるゴーストが後ろ(位相方向)に飛んで、重要な「脳幹」や「小脳」に重なってしまうとします(デフォルトが前後方向の場合)。
- ここで、位相エンコード方向を「前後方向」から「左右方向」にチェンジします。すると、眼球のゴーストは脳の外側の空間(左右)へと飛んでいくため、脳幹の病変をハッキリと観察できるようになります。
⑤ 信号加算数(NEX / NSA)を増加する(平均化して薄める)
- ロジック: 同じ位相エンコードのデータを2回、3回と繰り返し撮影して平均値を取る方法です。ランダムな体動による位相のズレは、加算して平均化することで足し引きされて相殺され、画像上でゴーストが薄く目立たなくなります。ただし、加算回数に比例して撮像時間は長くなります。
⑥ 撮像時間の短縮(動く暇を与えない)
- ロジック: 高速スピンエコー(FSE)法やエコープラナーイメージング(EPI)法などの超高速シーケンスを使用し、呼吸や体動が起きる前に全ての位相データを集めきってしまいます。「息止め(スキャン時間20秒以下)」で撮影を終わらせる腹部ダイナミックMRIなどがこれに該当します。
第3章:データ打切によるアーチファクト(トランケーションアーチファクト)
1. 発生原因と特徴的な見え方
- 発生原因: 画像データの収集を、k空間(生データ空間)の途中で打ち切ってフーリエ変換(画像化)した際に発生します。別名、「トランケーションアーチファクト」や数学的な用語から「ギブス(Gibbs)の現象」とも呼ばれます。
- 出現方向: 基本的には「位相エンコード方向」に出現します。
- 特徴的な見え方: 信号強度が激しく異なる境界線(例:真っ白な脳脊髄液と、真っ黒な脊髄の境界線など)に沿って、並行に走る「さざ波(縞目状)」のノイズとして出現します。
2. 【国試ロジック】なぜ「データ打切」で波が出るのか?
国家試験で「どういう場所にトランケーションが出やすいか」を判定させる問題に対応するため、その物理的背景を理解しましょう。
- k空間の端っこと「輪郭」の関係:
- MRIの生データであるk空間において、中央付近は「画像のコントラスト(大雑把な白黒)」を記録しており、外側(端っこ)に行けば行くほど「画像の輪郭や急激な境界線(高空間周波数データ)」を記録しています。
- 本来、白と黒がパキッと分かれた急峻な境界線を100%完璧に再現するためには、k空間の無限に遠い端っこまでデータを集める必要があります。
- しかし、検査時間を短縮するために位相エンコード数を減らす(=k空間の端っこの収集を途中で打ち切る)と、計算機は急激な段差を計算しきれなくなります。
- その結果、境界線の手前で計算が「オーバーシュート(行き過ぎる)」「アンダーシュート(足りなくなる)」を繰り返し、まるで水面に石を投げ入れたときのような波紋状の縞目ノイズ(ギブス現象)が画像に現れてしまうのです。
3. 国試に出る具体的な対策と、画質のトレードオフ(罠)
国試では、対策だけでなく「その対策によって別の画質パラメータがどう変化するか」までを突っ込んできます。
① ピクセルサイズを小さくする(マトリクス数を大きくする)
- ロジック: 最も根本的な解決策です。視野(FOV)を変えずに位相方向のマトリクス数を大きくする(データを細かく撮影する)ことで、k空間のより外側(高空間周波数)までデータを打ち切らずに収集します。計算の精度が上がるため、縞目は消滅します。ただし、データを多く集める分、撮像時間は長くなり、1ピクセルが小さくなるためS/N比は低下するというデメリットがあります。
② 生データ(k空間)にフィルタをかける(ハミングフィルタ・ハンフィルタなど)
- ロジック(★超頻出の罠):
- 打ち切られたデータの端っこをなめらかに減衰させる「RAWデータフィルタ」をコンピュータ計算でかけます。急激なデータの断絶がなくなるため、アーチファクト(波)は綺麗に消えます。
- 国試のトレードオフ: データをなめらかに補正するということは、輪郭(エッジ)の情報を丸めるということと同じです。そのため、「画像全体のS/N比は向上するが、境界線がボヤけるため空間分解能は低下する」という現象が起きます。この組み合わせは国試の正誤判定で非常に狙われます。
③ 高空間周波数データを「外挿(がいそう)」する
- ロジック: 特別なソフトウェアを用いて、打ち切られて存在しないはずの「さらに外側のデータ」を、残されたデータから数学的に予測・計算して付け足す(外挿する)高度な技術です。撮像時間を延ばさずにアーチファクトを抑制できます。
④ 目的部位にアーチファクトが重ならないように位相方向を調整する
- ロジック: モーション対策でも登場した、アーチファクトを「逃がす」テクニックです。
- 臨床的な重要例(頸椎のサジタル撮影): 頸椎の撮影では、脳脊髄液と脊髄の境界にトランケーションの縞目が走りやすいです。この縞目が、脊髄の内部にピタリと重なってしまうと、本物の病変である「脊髄空洞症(脊髄の中に水が溜まる病気)」と非常に見分けがつきにくく(誤診の原因に)なります。
- この場合、あえて位相エンコードの方向を傾けたり、マトリクス数を微調整して縞目が出る位置をずらすことで、病変の有無を正確に評価できるようにします。
第4章:化学シフトアーチファクト(水と脂肪の位置ずれ)
1. 発生原因と特徴的な見え方
- 発生原因: 同じ場所に隣り合って存在するはずの「水(プロトン)」と「脂肪(プロトン)」の共鳴周波数の違いによって発生します。
- 特徴的な見え方: 水組織と脂肪組織が隣り合う境界(例:腎臓の周囲の脂肪、眼窩内の脂肪、腹壁など)において、片側が「黒い隙間(信号の欠損)」、その反対側が「白い重なり(信号の重複)」として非対称に出現します。
- 基本の出現方向: 通常の撮像法では、必ず「周波数エンコード方向(読み出し方向)」に出現します。
- 装置の特性: 静磁場強度(テスラ:T)が高くなればなるほど、ズレが大きくなり、高磁場装置(3Tなど)で特に顕著になります。
2. 【国試ロジック】なぜ水と脂肪が「ズレて」写るのか?
国試の計算問題(周波数シフトの算出など)を解くために、化学シフトの物理背景を完璧に数式・ロジックレベルで理解しましょう。
- ① 理由その1:化学遮蔽(しゃへい)と周波数差
- 水分子($\text{H}_2\text{O}$)の中の水素原子と、脂肪分子($\text{-CH}_2\text{-}$)の中の水素原子は、周囲を取り囲んでいる電子の環境が異なります。
- 脂肪の周りの電子は、外からの磁場を打ち消すシールド効果(化学遮蔽)が強いため、脂肪プロトンが実際に感じる磁場は、水プロトンよりもわずかに弱くなります。
- 磁場が弱くなれば、ラーモアの公式($\omega = \gamma B$)に従って共鳴周波数も低くなります。この水と脂肪の周波数の差(化学シフト)は、固有の定数として約3.5 ppmと決まっています。
- ② 磁場強度(T)に比例する周波数シフト(超頻出!)
- 「3.5 ppm」という割合は一定ですが、ベースとなる静磁場強度($B_0$)が上がると、実際の周波数の差(Hz)は掛け算で大きくなります。
- 1.5T 装置の場合: 約 $220 \text{ Hz}$ の差
- 3.0T 装置の場合: 約 $440 \text{ Hz}$ の差(1.5Tの2倍、激しくズレる!)
- ③ 理由その2:計算機の「勘違い」
- MRIは、位置を特定するために「周波数エンコード傾斜磁場」をかけ、「周波数が高い場所=右、周波数が低い場所=左」のように、周波数の違いを位置(ピクセル)に変換して画像を組み立てています。
- 水と同じ場所(右)にある脂肪は、生まれつき周波数が $220 \text{ Hz}$ 低いため、計算機はそれを「少し左(周波数の低い場所)にある組織だ」と勘違いして配置してしまいます。
- その結果、脂肪の画像全体が左へパコッとズレるため、右側には水と脂肪が重なって「白い帯」ができ、左側には脂肪がいなくなった「黒い隙間」ができるのです。
3. 【超重要な罠】EPI法における出現方向の逆転
⚠️ 「化学シフトは一律で周波数方向にしか出ない」と覚えている受験生を全員不合格にする、国試最大のひっかけトラップです。
- SE法 / GRE法 / FSE法: 「周波数エンコード方向」に出現。
- EPI(エコープラナーイメージング)法: なんと「位相エンコード方向」に巨大に出現します。
💡 なぜEPI法だけ「位相方向」にズレるのか?
EPI法は、1回のRFパルスに続いて傾斜磁場を激しく高速反転させ、k空間の全データを一瞬で埋める超高速撮像法です。
周波数方向のサンプリングは超高速(バンド幅が非常に広い)で行われますが、逆に「位相エンコード方向」のデータ収集ステップの間隔(サンプリング時間)は、通常のシーケンスに比べて圧倒的に遅く(長く)なります。
位置を決める「物差し(1ピクセルあたりの周波数幅)」が、位相方向において極端に狭くなっているため、水と脂肪のわずかな周波数差(数万円のズレ)が、位相エンコード方向に対して数十ピクセル分という巨大な位置ズレとなって牙をむきます。そのため、EPI法では化学シフトが位相エンコード方向に発生します。
4. 国試に出る具体的な対策とロジック
化学シフトを小さく抑えるためのパラメータ操作のロジックです。
① 受信バンド幅(受信周波数帯域幅)を広げる
- ロジック: 国試に最もよく出る本命の対策です。
- 受信バンド幅を広げるということは、1ピクセルあたりに割り当てる周波数の幅(Hz/pixel)を大きくする(=読み出し方向の傾斜磁場勾配を高くする)ことと同じです。
- 例えば、1ピクセル幅が $50 \text{ Hz}$ の設定のとき、$220 \text{ Hz}$ の化学シフトが起きると、約4.4ピクセル分($220 / 50$)も盛大にズレてしまいます。
- ここでバンド幅を広げて1ピクセル幅を $220 \text{ Hz}$ に設定し直すと、同じ $220 \text{ Hz}$ のズレであっても、わずか1ピクセル分($220 / 220$)のズレに抑え込むことができます。
- 国試のトレードオフ: 撮影中のサンプリング時間が短縮されるため、画像全体のS/N比は低下するという弱点があります。
② 脂肪抑制撮像法(CHESS法やSTIR法)を併用する
- ロジック: 原因となる「脂肪の信号」そのものをあらかじめ真っ黒に消してしまえば、水との境界線で位置がズレることも、重なることもなくなります。
第5章:磁化率アーチファクト(金属・空気による歪み)
1. 発生原因と特徴的な見え方
- 発生原因: 隣り合う組織(または物質)の間で、「磁化率(磁場の引き込みやすさ)」の差が極端に大きい境界において発生します。
- 原因となる具体的な物質・部位:
- 生体外・異物: 体内の金属(手術用クリップ、インプラント、ヘアピン、化粧品に含まれる金属成分、心電図モニタの電極など)。これらは「金属(強磁性体)アーチファクト」とも呼ばれますが、根本の物理原理は同一です。
- 生体内(解剖学的境界): 「空気(副鼻腔、肺野、消化管ガス)」と「軟部組織」が隣接する境界や、微小出血による「鉄イオン(ヘモジデリン)」の沈着部位。
- 特徴的な見え方: 境界の周辺において、画像がグニャリと不自然に歪む「幾何学的歪み」と、信号が完全に消失して真っ黒に抜ける「信号欠損(シグナルボイド)」が同時に出現します。
2. シーケンスごとの「感受性(出やすさ)」のロジック
国家試験で最も狙われるのが、「どの撮像法が磁化率アーチファクトに強くて、どれが弱いか」というシーケンスの感受性順です。以下の不等式は絶対に暗記してください。
$$\text{EPI} > \text{GRE} > \text{SE} > \text{FSE}$$
(※左に行くほどアーチファクトが激しく出やすい、右に行くほど出にくい)
💡 なぜこの順番になるのか?(180°パルスの有無という決定打)
- SE(スピンエコー)法 / FSE(高速スピンエコー)法が「強い」理由:
- SE系は、最初に90°パルスをかけた後、エコーを集める真ん中のタイミング($\text{TE}/2$)で必ず「180°反転パルス(リフォーカスパルス)」を1発(FSEなら何発も)ぶち込みます。
- 磁化率の差によって局所の磁場がどんなに不均一になり、プロトンたちの位相がバラバラに乱れて(静的な不均一による $T_2^*$ 減衰)しまっても、180°パルスをかけることで、バラついた位相をもう一度ピタリと元の位置へ揃え直す(リフォーカスさせる)ことができます。
- そのため、磁場の乱れを力技でキャンセルでき、アーチファクトが最小限に抑えられます。特にFSE法は180°パルスを短い間隔で連続印加するため、最も金属の歪みに強い(ごまかしが効く)シーケンスとなります。
- GRE(グラジエントエコー)法 / EPI(エコープラナーイメージング)法が「弱い」理由:
- GRE系は、180°パルスを一切使いません。傾斜磁場のプラスマイナスをひっくり返す(勾配反転)だけでエコーを作ります。
- 傾斜磁場は「自分が意図的にかけた磁場のズレ」は戻せますが、金属や空気のせいで勝手に狂ってしまった「局所の不均一な磁場」を元に戻す力は一切ありません。
- そのため、磁化率の乱れがそのままストレートに信号低下($T_2^*$ 短縮効果)に繋がってしまい、画像が激しく黒く抜けます。特にEPI法は第4章でも触れた通り「位相方向の物差し」が極めて弱いため、少しの磁場の乱れで画像が全域にわたってグニャグニャに大破(幾何学的歪み)してしまいます。
3. アーチファクトを「悪化させる」5つの因子
国試の「アーチファクトを大きくする原因はどれか」という問題で、正しい組み合わせを選ばせるための知識です。
- ① 静磁場強度(T)が大: 1.5T よりも 3.0T の方が、金属や空気の境界で発生する磁場の歪み(磁化勾配)が自乗に比例して強くなるため、アーチファクトは巨大化します。
- ② エコー時間(TE)が長い: パルスをかけてから信号を読むまでの時間が長ければ長いほど、位相がバラバラに乱れる時間的猶予を与えてしまうため、黒い抜け(信号欠損)が広がります。
- ③ スライス厚が大 / ピクセルサイズが大: 1つのピクセル(またはボクセル)のサイズが大きいと、その1マスの中に「磁場が良い場所」と「磁場が歪んだ場所」が混ざり合ってしまい、マスの中で信号が相殺(ボクセル内位相分散)されて真っ黒になります。
- ④ リフォーカスパルスを用いない: 先述の通り、GRE系列は致命的に弱くなります。
4. 国試に出る具体的な対策とロジック
臨床現場で、どうしても金属が入っている患者(例:脳の手術後クリップがある等)を撮影しなければならない時のパラメータ変更ロジックです。
① スピンエコー(SE法・FSE法)を使用する
- ロジック: 180°リフォーカスパルスの力を借りて、磁場の不均一を強制リセットします。金属周辺を見たい時は、GREは封印してFSEを選ぶのが鉄則です。
- 装置の選択: 可能であれば、高磁場(3T)を避け、磁場の歪みがマイルドな低磁場装置(1.5T以下)で撮影します。
② エコー時間(TE)を短くする
- ロジック: 位相がバラバラに散らばる前に、素早くエコーをサンプリング(早収穫)して、信号が消えるのを防ぎます。
③ スライス厚を薄くする / 空間分解能を上げる
- ロジック: マトリクス数を増やす、あるいはFOVを縮小して、1ピクセルのサイズを限界まで小さく(薄く)します。ボクセル内部での磁場の高低差(ムラ)を少なくすることで、ボクセル内位相分散による信号の打ち消し合い(ブラックアウト)を最小限に食い止めます。
④ 周波数帯域幅(受信バンド幅)を広くする
- ロジック: 化学シフトの対策と同じです。読み出し傾斜磁場を強くかけることで、金属のせいで発生した勝手な磁場の高低差(ノイズ)を、物差しの力(強い傾斜磁場)で相対的に小さく押しつぶし、位置の幾何学的歪みを引き伸ばして真っ直ぐに補正します。
第6章:流体・スライス干渉・解剖学的角度による特殊なアーチファクト
ここからは、装置のハードウェア特性や、患者の解剖学的構造の「角度」が原因で発生する、少し応用的なアーチファクトをマスターしましょう。
6-1. ミスレジストレーションアーチファクト
- 発生原因: 血液や脳脊髄液のように「動いている流体(流動プロトン)」が、画像上で本来あるべき解剖学的な位置からズレた場所に写ってしまう現象です。
- 物理ロジック(なぜ位置がズレるのか):
- MRIが位置を特定する際、1ラインごとに「位相エンコード」を印加してから、実際に信号を読み取る(周波数エンコード)までに、わずかな「時間のズレ(タイムラグ)」が必ず存在します。
- 流体内のプロトンは、位相エンコードによって「お前はここの位置だぞ」というマーク(位相情報)を付けられますが、実際に信号を読み取られるまでの数ミリ秒〜数十ミリ秒の間に、血流に乗って別の場所へ移動してしまいます。
- 計算機は、移動した先で受信した信号であっても、最初に付けられたマーク(位相情報)だけを頼りに位置を計算するため、「移動する前の古い位置」に流体の信号を配置してしまいます。これが位置の不一致(ミスレジストレーション)が起きる原因です。
- 🎯 国試に出る具体的な対策
- 位相エンコードから読取までの時間(TE)を極限まで短縮する: タイムラグを短くすれば、プロトンが移動できる距離も短くなるため、ズレを最小限に抑えられます。
- 位相エンコード方向にリフェーズ用傾斜磁場を印加する: 第2章のモーション対策でも登場した「流れ補正(フローコンペンセーション)」をかけ、流体の位相変化をあらかじめ相殺・リセットします。
6-2. クロストークアーチファクト(スライス間の干渉)
- 発生原因: 複数のスライスを同時に、あるいは連続して撮影する(マルチスライス法)際、「スライスとスライスの間隔(スライスギャップ)が狭すぎる」ときや、「スライス同士を斜めに交差(クロス)させて配置した」ときに発生します。
- 特徴的な見え方: スライスが隣接・交差している境界線付近の画像が、全体的にどんよりと暗く(信号強度が低下)なります。
- 物理ロジック(なぜ信号が下がるのか):
- 本来、特定の1枚のスライスを選ぶためのRFパルス(スライス選択パルス)は、数学的に綺麗な「真四角(矩形)」の形で、そのスライスの厚みの中だけに100%収まってほしいところです。
- しかし、現実の装置が作るRFパルスは、フーリエ変換の限界(sinc関数など)により、パルスの裾野(すその)がどうしても隣のスライス領域までジワジワとはみ出してしまいます。
- 隣のスライス領域にあるプロトンは、自分の番が回ってくる前に、隣のはみ出たパルスをフライングで浴びてしまいます。これにより縦磁化が中途半端に飽和(サチュレーション)してしまいます。
- その状態でいざ自分のスライスの撮影が始まっても、すでに磁化が回復しきっていない(飽和している)ため、十分な信号が出せず、画像が暗くなってしまいます。
- 🎯 国試に出る具体的な対策
- マルチスライス撮像時、スライス間に約10%〜20%程度の「ギャップ(隙間)」を設定する: 裾野がはみ出しても大丈夫なようにあらかじめ隙間を開けておけば、隣のスライスを飽和させずに済みます。
- インターリーブ(Interleave)撮像を行う: スライスを「1番目 $\rightarrow$ 2番目 $\rightarrow$ 3番目」と順番に撮るのではなく、「1番目 $\rightarrow$ 3番目 $\rightarrow$ 5番目」と1枚飛ばしで撮り、戻って「2番目 $\rightarrow$ 4番目 $\rightarrow$ 6番目」を撮る手法です。隣を撮るまでに時間的猶予(TR)ができるため、はみ出たパルスによる飽和が完全に回復し、クロストークを防げます。
6-3. マジックアングルアーチファクト
- 発生原因: 肩の腱板(棘上筋腱など)や、膝の靭帯(コラーゲン線維束)を撮影した際、「断裂や炎症などの病変が一切ない、完全に正常な組織」であるにもかかわらず、局所的に信号が異常に高く(白く)変化してしまう現象です。臨床現場で「腱板断裂」や「靭帯炎」と誤認・誤診されやすい極めて厄介な罠です。
- 物理ロジック(なぜ白くなるのか):
- 靭帯や腱を構成するコラーゲン線維は、内部のプロトン同士が非常に近い距離でガッチリと並んでいるため、普段はスピン同士の磁気的な相互作用(双極子-双極子結合)が強力に働いています。
- この相互作用のせいで、パルスを浴びた後の横磁化の減少が尋常じゃなく早く、T2値が数ミリ秒(極めて短い)しかないため、通常のMRI(TEが数十ミリ秒)では信号が完全に消え去って真っ黒に写ります。
- しかし、このコラーゲン線維の走行方向が、装置の静磁場(主磁場)の方向に対して「約55度(正確には54.74度)」の角度でぴったり交差したとき、この双極子結合の力が数式上「ゼロ」に相殺されてしまいます。
- 相互作用が消えると、T2値が本来よりも劇的に長くなる(信号がなかなか消えなくなる)ため、短いTEの撮像法(T1強調やプロトン密度強調画像)で撮影した際、そこだけが「病変のように白く光って」写ってしまいます。


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