乳がんは、日本人女性の罹患率1位のがんであり、現在は「9人に1人」が経験すると言われている。 放射線技師にとって乳がんの治療は、**「肺や心臓をミリ単位で避けながら、乳房全体を均一に焼く」**という、極めて高度な幾何学的センスが問われる分野だ。
本ページでは、ただの暗記リストを捨て、解剖学と物理学の視点から乳がん治療を攻略する。
第1章:乳がんの疫学と「49%」の理由
乳がんは「女性特有」と思われがちだが、国試ではあえてそこを突いてくる。
1. 疫学:男性にも乳がんはある
- 国試の急所: 男性乳がんは全体の約1%程度存在するが、女性に比べて発見が遅れやすいため**「予後不良」**となることが多い。
- 要因: 高齢、遺伝、高齢初産(30歳以上)、ピル内服、肥満などがリスクとなる。
2. 発生部位:なぜ「外側上方(C領域)」なのか?
乳房を4つの領域(+乳頭)に分けたとき、がんが最も発生しやすいのは**外側上方(C領域)で、約49%**を占める。
- 【思考ポイント】 なぜここが半分近くを占めるのか? 答えは単純で、**「そこに最も乳腺組織(ターゲット)が詰まっているから」**だ。乳腺の量とがんの発生率は完全に比例することを覚えておこう。
3. 組織型:浸潤(しんじゅん)の壁
- 浸潤がん(80%): ほとんどがこれ。乳管を突き破って周りに広がっている状態(主に浸潤性乳管癌)。
- 非浸潤がん(10%): 乳管の中だけに留まっている「超早期」のがん。
第2章:放射線治療の極意 〜接線対向二門と心臓保護〜
乳がんの放射線治療は、手術で取り切れなかった微小ながん細胞を焼き払い、局所再発率を3分の1にまで激減させる魔法のステップだ。
1. 接線対向二門(せっせんたいこうにもん)照射
乳房温存手術後に行われる標準的な方法だ。
- 【思考ポイント】 真上から当てると、その後ろにある「肺」が放射線で焼けてしまう(放射線肺炎)。そこで、乳房の山をかすめるように「接線」方向から左右2門で挟み撃ちにする。こうすることで、肺への被ばくを最小限に抑えつつ、乳房全体を均一に照射できる。
2. 左乳房における「心臓」の鉄壁防護
- 【国試の急所】 「左」の乳がんを治療する場合、照射野のすぐ後ろに心臓がある。心臓に当たると将来的な心疾患のリスクになるため、技師は**「心臓を照射野から外す」**ための緻密な角度調整を行う。
- 近年では、大きく息を吸って心臓と乳房の距離を離した状態で止めて打つ「DIBH(深吸気息止め照射)」も重要トピックだ。
3. ブースト照射:トドメの一撃
- 乳房全体への照射(約50Gy)が終わった後、がんが元々あった場所(腫瘍床)にだけ追加で10〜16Gyを上乗せする。
- ターゲットが浅い場所にあるため、浸透しすぎない電子線を使って、範囲を絞って(小照射野)当てるのが一般的だ。
第3章:忘れた頃にやってくる「晩期障害」
放射線治療の副作用は、時期によって分類される。
- 急性有害事象(数週間): 放射線皮膚炎(日焼けのような赤み)、食道炎(鎖骨下などを当てる場合)。
- 亜急性(数ヶ月): 放射線肺炎。
- 晩期有害事象(数ヶ月〜数年):
- 肋骨骨折: 放射線で骨が脆くなり、ふとした拍子に折れることがある。
- 上肢浮腫: 脇のリンパ節を治療した場合、腕のリンパの流れが悪くなってパンパンに腫れる。
- 腕神経叢障害: 手のしびれや麻痺。

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