【放射線物理学】阻止能公式の比例関係と飛程の極意!ベーテ・ブロッホからブラッグピークまで

  1. 第1章:阻止能(Stopping Power)の定義と単位の罠
    1. 1-1. 阻止能の本質:単位量あたりのエネルギー損失
      1. ① 線阻止能(Linear Stopping Power:\(S\))
      2. ② 質量阻止能(Mass Stopping Power:\(S/\rho\))
    2. 1-2. 全線阻止能の足し算ロジック
    3. 1-3. 実務・国試の定番!電子の「水/空気質量阻止能比」の秘密
  2. 第2章:衝突阻止能の公式に隠された比例関係(ベーテ・ブロッホ)
    1. 2-1. 重荷電粒子の衝突阻止能:なぜ \(z^{2}\) に比例し、\(v^{2}\) に反比例するのか
      1. ① なぜ電荷 \(z\) の「\(2\)乗」に比例するのか?
      2. ② なぜ速度 \(v\) の「\(2\)乗」に反比例するのか?
    2. 2-2. 質量衝突阻止能:なぜ物質の種類(\(Z/A\))に依らないのか?
    3. 2-3. 水の質量阻止能グラフの読み取りと「密度効果」
  3. 第3章:放射阻止能の公式と「衝突・放射比」の計算攻略
    1. 3-1. 放射阻止能の公式:なぜ原子番号 \(Z\) の「\(1\)乗」に比例するのか
      1. ① 線放射阻止能(\(S_{\text{rad}}\))は、原子番号 \(Z\) の「\(2\)乗」に比例する
      2. ② 質量放射阻止能(\(S_{\text{rad}}/\rho\))にすると、\(Z\) の「\(1\)乗」に比例する
    2. 3-2. 国試計算の神公式!「放射損失/衝突損失」の比
    3. 3-3. 臨界エネルギー(ふたつのブレーキが並ぶ場所)
  4. 第4章:電子 vs 重荷電粒子!飛程(Range)とブラッグピークの真実
    1. 4-1. 電子の飛程:軽すぎてフラフラ散乱する
    2. 4-2. 重荷電粒子の飛程:重いからこそ「直進」する
    3. 4-3. 医療の革命!「ブラッグピーク」と「核破砕現象」のロジック
      1. 最後の伏兵:核破砕現象(フラグメンテーション)

第1章:阻止能(Stopping Power)の定義と単位の罠

Vol.1では、荷電粒子が物質に突っ込んだときの「4つの相互作用(悪さ)」を学びました。ここからは、それらの悪さによって「荷電粒子がどれくらい効率よくエネルギーを奪われてブレーキをかけられるか」という量的なお話に移ります。

国家試験の物理や理工学で、計算問題や文章の正誤問題として非常によく狙われるのが、この阻止能(Stopping Power)の定義と単位です。ここには受験生を引っかけるための「単位の罠」が潜んでいるので、ロジックでスッキリ見破れるようになりましょう。

1-1. 阻止能の本質:単位量あたりのエネルギー損失

阻止能という言葉を難しく考える必要はありません。一言で言えば「放射線が物質の中を少し進むごとに、どれだけのエネルギーを奪い取られるか(損失するか)」というブレーキの強さのことです。

この阻止能には、国試で使い分けをガッツリ迫られる2つの表現方法(単位)があります。

① 線阻止能(Linear Stopping Power:\(S\))

荷電粒子が物質の中を「\(1 \text{ mm}\)(または \(1 \text{ cm}\))進むごとに失うエネルギー」のことです。

物質の中の「長さ(距離)」に注目した表現ですね。

  • 単位[latex]\text{MeV/mm}[/latex][latex]\text{MeV/cm}[/latex]

② 質量阻止能(Mass Stopping Power:\(S/\rho\))

国試の計算問題や公式で主役になるのがこちらです。先ほどの線阻止能(\(S\))を、物質の密度(\(\rho\))で割り算したものです。

  • 単位[latex]\text{MeV} \cdot \text{cm}^{2}/\text{g}[/latex]

なぜわざわざ密度で割るのでしょうか?これには「物質の見た目のスカスカ度に惑わされないため」という深いロジックがあります。

たとえば、「水」と「水蒸気」を思い浮かべてください。中身はどちらも同じ \(\text{H}_{2}\text{O}\)(原子)ですが、水蒸気はスカスカ(低密度)なので、荷電粒子が \(1 \text{ cm}\) 進んだだけではあまり原子にぶつかれず、線阻止能 \(S\) は小さくなってしまいます。

これでは、中身(原子のブレーキ性能)は同じなのに、見た目がギュッと詰まっているかスカスカかで値がバラバラになって不便ですよね。

そこで、密度(\(\rho\))で割り算してあげると、物質の詰まり具合がキャンセルされ、「ターゲットとなる原子そのものが持っている純粋なブレーキの強さ」を比較できるようになります。だからこそ、国試に出る阻止能の基本公式(ベーテ・ブロッホの式など)は、すべてこの「質量阻止能(\(S/\rho\))」の形で書かれているのです。そりゃそうだ!と納得できますね。

1-2. 全線阻止能の足し算ロジック

荷電粒子が物質の中で起こすエネルギー損失のトータル(全線阻止能 \(S\))は、Vol.1で学んだ「衝突損失」と「放射損失」のブレーキの合計になります。

$$S = S_{\text{col}} + S_{\text{rad}}$$

  • \(S_{\text{col}}\)(線衝突阻止能):軌道電子を電離・励起させて失うエネルギー
  • \(S_{\text{rad}}\)(線放射阻止能):原子核の電場で急ブレーキがかかって(制動X線を出して)失うエネルギー

弾性散乱はエネルギーが減らない(\(0\))のでここには登場しません。全体のブレーキの強さは、単純にこれら2つの損失の足し算で決まります。もちろん、これを密度で割った質量阻止能でも同じ足し算(\(S/\rho = S_{\text{col}}/\rho + S_{\text{rad}}/\rho\))が成り立ちます。

1-3. 実務・国試の定番!電子の「水/空気質量阻止能比」の秘密

放射線治療のドジメトリ(線量計測)の分野で、驚くほどよく出題される一歩踏み込んだ重要知識があります。それが、「電子線のエネルギーが深部(物質の奥)に進むほど、水と空気の質量阻止能の比(

\( (S/\rho){\text{water}} / (S/\rho){\text{air}} \)

)が大きくなる」という現象です。

数式だけを見るとウッと拒絶反応が出るかもしれませんが、これまでの壊変や相互作用のロジックが頭に入っていれば、おそろしくシンプルに解き明かせます。

  1. 電子線が物質の深部に進むということは、途中でたくさん衝突を繰り返して、電子自身のエネルギーがどんどん低く(遅く)なっているということです。
  2. 電子のエネルギーが低くなると、原子核の近くを通過するときに、プラスの電気に引っ張られてダラダラと長い時間つかまるようになるため、水の中での衝突阻止能(ブレーキの効きやすさ)が急激に跳ね上がります。
  3. 一方で、空気はもともと非常にスカスカな気体であるため、電子が遅くなったときのブレーキの「跳ね上がり度合い(密度効果の影)」が水よりも緩やかです。

結果として、深部にいって電子がヨボヨボになるほど、分母(空気)に比べて分子(水)のブレーキの強さが圧倒的に勝るようになるため、割り算の答え(比)は深部ほど大きくなっていきます。

このように、「深部=電子が減速している」という前提と結びつければ、国試の「大きくなるか、小さくなるか」の2択問題も自信を持って「大きくなる!」と選べるようになります。

ありがとうございます!それでは、国試物理の最大の難所である【Vol.2:第2章:衝突阻止能の公式に隠された比例関係(ベーテ・ブロッホ)】をビルドします。

数式の文字をただ眺めると呪文のように見えますが、「なぜその文字がそこ(分子・分母)にいるのか」の理由を突き詰めれば、暗記なしで数式の形が頭に浮かんできます。

【サイト出力用原稿:Vol.2(第2章)】

第2章:衝突阻止能の公式に隠された比例関係(ベーテ・ブロッホ)

国家試験の放射線物理学で、最も多くの受験生が涙をのむのが、阻止能の「比例・反比例」の問題です。

「質量衝突阻止能は、荷電粒子の電荷の何乗に比例するか?」といった問題が頻出します。

これらを解くための超重要公式が、量子論的に求められたベーテ・ブロッホ(Bethe-Bloch)の式です。

公式のすべてを丸暗記する必要はありません。国試で狙われる「文字の比例関係」だけに注目し、その理由をロジックで解き明かしていきましょう!

2-1. 重荷電粒子の衝突阻止能:なぜ \(z^{2}\) に比例し、\(v^{2}\) に反比例するのか

まずは、アルファ粒子や陽子などの重荷電粒子(重い粒子)が、物質の軌道電子にぶつかっていくときの線衝突阻止能(\(S_{\text{col}}\))の比例関係を見てみましょう。ライバルサイトのノートにある重要公式がこれです。

$$S_{\text{col}} \propto \frac{z^{2}}{v^{2}} \propto \frac{z^{2}}{E} \times m$$

  • \(z\):飛び込んでいく荷電粒子の電荷(原子番号)
  • \(v\):飛び込んでいく荷電粒子の速度
  • \(E\):飛び込んでいく荷電粒子の運動エネルギー

なぜこの形(\(z^2 / v^2\))になるのか、理由が分かれば「そりゃそうだ!」となります。

① なぜ電荷 \(z\) の「\(2\)乗」に比例するのか?

衝突損失の本質は、飛んできた粒子(電荷 \(z\))と、物質の軌道電子(電荷 \(-1\))の間に働くクーロン力(電気的な力)です。

物理の基本であるクーロンの法則では、働く力は「お互いの電荷の掛け算(\(z \times 1 = z\))」に比例します。

さらに、相手に与えるエネルギー(運動量変化)は「力の2乗」に比例するという物理の法則があるため、最終的なブレーキの強さは \(z\) の \(2\) 乗に比例(\(z^{2}\)) することになります。

だから、電荷が \(1\) の陽子(\(\text{p}\))に比べて、電荷が \(2\) のアルファ粒子(\(\alpha\))は、\(2^2 = 4\) 倍もの凄まじいブレーキがかかるのです。

② なぜ速度 \(v\) の「\(2\)乗」に反比例するのか?

これは「ターゲットの横を通り過ぎる時間」をイメージすれば一発です。

粒子が猛スピード(\(v\) が大きい)で駆け抜けると、軌道電子の横を一瞬で通り過ぎてしまうため、電気的な力を及ぼす時間が短くなり、エネルギーをあまり奪えません。逆に、ゆっくり進む粒子(\(v\) が小さい)は、じっくり時間をかけて電子を引っ張るため、大量のエネルギーを奪い取ることができます。

つまり、スピードが速いほどブレーキは効かなくなる(反比例する)ため、分母に \(v^{2}\) が入るのです。

(※運動エネルギー \(E\) は \(v^2\) に比例するため、\(v^2\) に反比例することは、エネルギー \(E\) に反比例することと同じ意味になります)

2-2. 質量衝突阻止能:なぜ物質の種類(\(Z/A\))に依らないのか?

次に、これを密度 \(\rho\) で割った質量衝突阻止能(\(S_{\text{col}}/\rho\))の公式に目を向けてみましょう。

$$S_{\text{col}}/\rho \propto \frac{1}{m v^{2}} \times \frac{Z}{A}$$

ここで、新しく物質側の文字である \(Z\)(ターゲット物質の原子番号)\(A\)(ターゲット物質の質量数) が登場しました。

国試でめちゃくちゃ狙われるのが、この \(Z/A\) という比率の性質です。

実は、周期表にあるほとんどの原子において、原子番号(陽子の数 \(Z\))と質量数(陽子+中性子の数 \(A\))の比率は、どれを見てもだいたい \(Z/A \approx 0.5\) 前後でほぼ一定になっています(例:炭素なら \(6/12 = 0.5\)、酸素なら \(8/16 = 0.5\))。

質量阻止能の公式では、この \(Z/A\) が丸ごと掛け算されているため、物質が水だろうがアルミニウムだろうが、\(Z/A\) の部分の数字はほとんど変わりません。

だからこそ、ライバルサイトのまとめに「\(Z/A\) の値は物質によって変化しないため、質量阻止能(\(S/\rho\))は物質の種類に依らない(ほぼ一定)」という強烈な結論が書かれているのです。ロジックが分かれば、一見複雑な公式からこの結論が導き出されることに深く納得できますね!

2-3. 水の質量阻止能グラフの読み取りと「密度効果」

最後に、3枚目の画像にあった「水の質量衝突阻止能のグラフ」の動きを、電子のエネルギーごとにロジックで完璧に整理しましょう。

電子のエネルギー(\(E_{\text{e}}\))の変化に伴って、ブレーキの強さ(\(S_{\text{col}}\))は次のようにドラマチックに変動します。

  1. エネルギーが超低いとき(\(E_{\text{e}} < 100 \text{ eV}\)):電子が遅すぎて、そもそも物質の軌道電子を電離・励起させる最低限のパワーすらありません。そのため、エネルギーの低下とともにブレーキの強さも小さくなって(ゼロに近づいて)いきます。
  2. エネルギーが少し上がったとき(\(E_{\text{e}} \ll\) 静止エネルギー):電離を起こせるパワーを手に入れた電子は、まだ速度が遅いため、先ほどの「ゆっくり走るほどじっくりエネルギーを奪う」という反比例ルールが発動します。エネルギーが低いほど、ブレーキの強さは大きくなります。
  3. 運命のボーダーライン(\(E_{\text{e}} = 2 \times\) 静止エネルギー ≒ \(1 \text{ MeV}\) 付近):電子がどんどん加速していくと、\(1 \text{ MeV}\) 付近でブレーキの効きやすさが底を打ち、いちばん低くなります。このグラフのボトムのことを水の最小電離と呼びます。国試では「最小電離が起こるエネルギーはどこか」というグラフ読み取り問題が出るので、この \(1 \text{ MeV}\) という数値を脳に焼き付けてください。
  4. エネルギーが超高くなったとき(\(E_{\text{e}} \gg 2 \times\) 静止エネルギー):\(1 \text{ MeV}\) を超えて電子の速度が光速に近づくと、アインシュタインの相対論的な効果によって、電子の電気的な力(電場)が横方向にギュッと引き伸ばされます。これにより、遠くの軌道電子にまで悪さを及ぼせるようになるため、ブレーキの強さは再び大きくなっていきます(緩やかな右肩上がり)。

ただし、エネルギーが \(10 \text{ MeV}\) 以上の超高エネルギーになると、今度は「周りの原子たちが密集してバリアを張り、遠くへの電場を遮蔽してしまう」という密度効果(偏極効果)が発生します。そのため、実際の水の中では、右肩上がりの上昇がこの密度効果によって一定以下に抑え込まれることになるという点も、国試のひっかけ対策として重要です。

第3章:放射阻止能の公式と「衝突・放射比」の計算攻略

第2章で学んだ「衝突阻止能(ミクロなビリヤード)」は、相手が軌道電子だったため、質量阻止能にすると物質の種類(\(Z/A\))にほとんど依存しないという性質がありました。

しかし、今回の主役である放射阻止能(急ブレーキの摩擦熱)は、相手が「原子核」です。

原子核が相手だからこそ、公式の文字の現れ方が衝突阻止能とはガラリと変わり、これが国試の絶好の狙い目になります。

3-1. 放射阻止能の公式:なぜ原子番号 \(Z\) の「\(1\)乗」に比例するのか

電子(軽荷電粒子)が物質に入ったときの、線放射阻止能(\(S_{\text{rad}}\))の公式に注目してみましょう。ライバルサイトのまとめにある重要関係式がこれです。

$$S_{\text{rad}} \propto N \times Z^{2} \times (E + mc^{2}) = \frac{Z}{A} \times \rho \times Z \times (E + mc^{2})$$

  • \(N\):単位体積あたりの原子数
  • \(Z\):ターゲット物質の原子番号
  • \(E\):電子のエネルギー
  • \(mc^{2}\):電子の静止エネルギー(\(0.511 \text{ MeV}\))

なぜこの形になるのか、原子核のパワーを想像すれば「そりゃそうだ!」となります。

① 線放射阻止能(\(S_{\text{rad}}\))は、原子番号 \(Z\) の「\(2\)乗」に比例する

急ブレーキ(制動放射)を引き起こすのは、原子核が持っているプラスの電気(電荷 \(Z\))です。

プラスのパワーが強ければ強いほど、飛んできた電子を強烈に引き曲げて大減速させることができます。ブレーキの強さは、この原子核の電荷 \(Z\) の \(2\) 乗に比例(\(Z^{2}\)) します。

だから、原子番号が圧倒的に大きい「タングステン(\(Z=74\))」などの重い物質は、もの凄く効率よく制動X線を生み出すことができるのです。

② 質量放射阻止能(\(S_{\text{rad}}/\rho\))にすると、\(Z\) の「\(1\)乗」に比例する

ここが国試の最大のひっかけポイントです。先ほどの数式を密度 \(\rho\) で割り算して、「質量放射阻止能」の形に変形してみましょう。

$$S_{\text{rad}}/\rho \propto \frac{Z}{A} \times Z \times (E + mc^{2})$$

ここで、第2章のロジックを思い出してください。周期表のどの原子を見ても、\(Z/A\) の部分はだいたい \(0.5\)(一定) になるのでしたよね。

ということは、この \(Z/A\) を定数(数字)として無視してあげると、残るターゲット物質側の文字は、後ろにくっついている \(Z\)(原子番号)の \(1\) 乗だけ になります!

  • 放射阻止能(\(S_{\text{rad}}\))は、\(Z\) の \(2\) 乗 に比例
  • 質量放射阻止能(\(S_{\text{rad}}/\rho\))は、\(Z\) の \(1\) 乗 に比例

国試では「電子の質量放射阻止能は、ターゲット物質の原子番号の何乗に比例するか?」という問いで、選択肢に「1乗」と「2乗」を並べて受験生をハメにきます。「質量阻止能にすると、\(Z/A \approx 0.5\) のおかげで \(Z\) が1個分キャンセルされるから1乗だ!」というロジックさえあれば、この罠には絶対に引っかかりません。

なお、アルファ粒子や陽子などの重荷電粒子の場合は、粒子自体の質量(\(M\))が電子に比べて重すぎるため、原子核の電場に近づいてもビクともせず、急ブレーキがかかりません。そのため、「重荷電粒子の放射阻止能は、軽すぎて無視できる(ほぼゼロ)」という点も、電子との決定的な違いとして重要です。

3-2. 国試計算の神公式!「放射損失/衝突損失」の比

国家試験の物理の計算問題で、数式そのものを答えさせたり、実際の数字(エネルギーや原子番号)を代入させて計算させる超定番の「神公式」があります。

それが、電子が失うブレーキエネルギーの比率を表した、放射損失(\(S_{\text{rad}}\))と衝突損失(\(S_{\text{col}}\))の比の式です。

$$\frac{S_{\text{rad}}}{S_{\text{col}}} = \frac{(E + 0.511) \times Z}{820}$$

  • \(E\):電子の運動エネルギー [latex]\text{MeV}[/latex]
  • \(Z\):ターゲット物質の原子番号
  • \(0.511\):電子の静止エネルギー [latex]\text{MeV}[/latex]

分子を見ると、\(E + 0.511\)(電子の全エネルギー)と \(Z\)(原子番号)が掛け算されています。

つまり、「電子のエネルギーが高くなるほど、また物質の原子番号が大きくなるほど、衝突損失(ビリヤード)に比べて放射損失(急ブレーキ)の割合がめちゃくちゃ強くなる」ということを意味しています。そりゃそうですよね、スピードが速くて相手が重いほど、大クラッシュ(急ブレーキ)のエネルギーのほうが跳ね上がるわけです。

実際の国試では、「エネルギー \(10 \text{ MeV}\) の電子線が、鉛(\(Z=82\))に入射したときの、放射損失と衝突損失の比を求めよ」といった問題が出ます。

公式を知っていれば、分子に \((10 + 0.511) \times 82\) を入れ、それを \(820\) で割り算するだけで、数十秒で確実に1点をゲットできます。

3-3. 臨界エネルギー(ふたつのブレーキが並ぶ場所)

この公式の応用として言葉の定義が狙われるのが、臨界エネルギーです。

電子のエネルギーをどんどん高くしていくと、最初は主役だった衝突損失(ビリヤード)を追い抜いて、放射損失(急ブレーキ)のほうが強くなっていきます。

この、「同じ物質において、衝突損失と放射損失の強さがぴったり同じ(\(S_{\text{rad}} = S_{\text{col}}\))になる瞬間の電子のエネルギー」のことを臨界エネルギーと呼びます。

先ほどの神公式でいうと、比率(左辺)がぴったり「\(1\)」になる瞬間のエネルギーのことです。

原子番号 \(Z\) が大きい物質ほど、臨界エネルギーはより低いエネルギーで早く訪れる(急ブレーキのほうがすぐに主役になる)というロジックも、合わせて頭に叩き込んでおきましょう。

第4章:電子 vs 重荷電粒子!飛程(Range)とブラッグピークの真実

荷電粒子が物質の中に入ってから、すべてのエネルギーを失って完全に停止するまでの直線の深さ(距離)のことを飛程(Range:\(R\))と呼びます。

国家試験では、飛んでいく粒子の「重さ(質量)」によって、物質の中での進み方がまったく異なるという性質が、数式やグラフ問題として非常によく狙われます。

4-1. 電子の飛程:軽すぎてフラフラ散乱する

まず、質量が圧倒的に軽い電子の進み方です。

電子は非常に軽いため、物質の中の原子や電子にぶつかるたびに、ピンポン玉のようにあちこちへ激しく進路を曲げられてしまいます(これを多重散乱と呼びます)。

中には、ぶつかった衝撃で真後ろに跳ね返って戻ってきてしまう後方散乱という現象を起こす電子もいます。

この後方散乱は、物質の原子番号が高いほど(原子核のプラスパワーが強いほど)、また線源を支える土台(支持体)が厚いほど、跳ね返る確率が大きくなる(ただし一定以上で飽和する)という特徴があり、放射線計測の実験問題の定番知識です。

このように、電子は物質の中でフラフラと蛇行しながら進むため、実際の移動距離(軌跡の長さ)に比べて、まっすぐ進んだ深さ(飛程 \(R\))はかなり短くなってしまいます。

国試でそのまま数値を答える定番の近似式が、以下の2つの電子の飛程公式です。

  • 高エネルギー(\(E = 5 \sim 50 \text{ MeV}\))のとき:$$R \approx 0.5E – 0.3 \quad [\text{cm}]$$
  • 中エネルギー(\(0.8 \text{ MeV} < E < 3 \text{ MeV}\))のとき:$$R \approx 0.54E – 0.13 \quad [\text{g} \cdot \text{cm}^{-2}]$$

エネルギー \(E\) を代入するだけで、電子が何センチ(あるいはどれくらいの質量厚み)で止まるかをザックリ計算できる公式です。文字の係数(0.5や0.54)のひっかけに注意しましょう。

4-2. 重荷電粒子の飛程:重いからこそ「直進」する

一方、アルファ粒子や陽子、炭素イオンなどの重荷電粒子の進み方は、電子とは完全に大違いです。

電子に比べて質量が何千倍、何万倍も重いため、物質の中の軽い軌道電子にぶつかったくらいではビクともせず、ダンプカーのようにひたすら真っ直ぐ「直進」していきます。

ライバルサイトのまとめにある通り、重荷電粒子の飛程 \(R\) の比例関係の式は以下のようになります。

$$R \propto \frac{1}{M} \times \left(\frac{E}{z}\right)^{2} \propto \frac{M}{z^{2}} \times v^{4} \approx 0.3E^{3/2}$$

  • \(M\):粒子の質量
  • \(z\):粒子の電荷(原子番号)
  • \(v\):粒子の速度
  • \(E\):粒子の運動エネルギー

真っ直ぐ進んでくれるからこそ、重荷電粒子には3つの飛程の大小関係が綺麗に存在し、国試でこの順番がよく入れ替えられて出題されます。必ずこの「大・中・小」の並びを暗記してください。

$$\text{最大飛程} > \text{外挿(実用)飛程} > \text{平均飛程}$$

実際の国試数値問題の定番として、「陽子線は、水中で \(200 \text{ MeV}\) のエネルギーを持っているとき、\(25.96 \text{ cm}\) の深さでぴったり停止する」という具体的な数字があります。

直進して狙った深さでピタッと止まってくれるこの性質が、がん治療(陽子線治療)で大活躍する最大の理由なのです。

4-3. 医療の革命!「ブラッグピーク」と「核破砕現象」のロジック

重荷電粒子が真っ直ぐ進んで停止する直前のその瞬間、グラフにとんでもない巨大なエネルギーの山が出現します。これが、放射線治療の主役であるブラッグピーク(Bragg peak)です。

なぜ、止まる直前にだけこんなに巨大な大爆破(エネルギー付与)が起こるのでしょうか?

第2章で学んだ、衝突阻止能のロジックを思い出してください。

「粒子は、速度が遅くなればなるほど(\(v^{2}\) に反比例して)、じっくり時間をかけて周囲の電子にエネルギーを奪い取る」というルールがありましたよね。

重荷電粒子が物質に突っ込んだ最初の方は、猛スピード(高エネルギー)すぎて、ブレーキがあまり効かずにすり抜けていきます(比電離が小さい)。

しかし、奥に進んでエネルギーを失い、いよいよ停止する直前(飛程の最深部)になると、粒子のスピードが極限まで遅くなるため、周囲の電子からエネルギーをガシガシ強烈に奪い取るようになり、阻止能が爆発的に跳ね上がります。

そして、エネルギーをすべて放出しきった次の瞬間、粒子は完全に「停止」するため、線量はゼロになります。

「スピードが遅くなるほどブレーキがめちゃくちゃ効く」というベーテ・ブロッホの反比例のロジックを知っていれば、なぜあんな綺麗な針のようなエネルギーの山(ブラッグピーク)ができるのかが「そりゃそうだ!」と完璧に腑に落ちますね。

最後の伏兵:核破砕現象(フラグメンテーション)

国試の理工学や物理で、高得点層をふるい落とすために出されるマニアックなキーワードが、この核破砕現象です。

炭素線などのさらに重い重粒子線の場合、ブラッグピークを作って綺麗に止まったはずなのに、グラフをよく見ると、ピークのさらに奥の深さに、わずかにエネルギーが漏れ出している(\(5 \sim 20%\) ほどの線量付与がある)のを確認できます。

これは、重い粒子が突き進んでいく途中で、物質の原子核とまともに正面衝突してしまい、粒子自体がパリーンと細かく割れて軽い別の粒子(破砕片)になってしまう現象です。

割れて軽くなった破砕片たちは、元の粒子よりも少しだけ奥まで突き進んでから止まるため、ブラッグピークの後ろに「おまけの裾野(テイル)」を作ってしまうのです。

「粒子が重すぎると、途中で割れて破片が奥に突き抜けちゃうから、ピークの後ろにも少し線量が出ちゃうんだな」と理解しておけば、国試の難解な文章題が出ても、自信満々で正解を見つけ出すことができます!

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放射線物理学
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