第1章:時間差の波を利用する「Dixon法」と1.5Tの魔法の数字(2.3 / 4.5ms)
前ページで学んだ通り、水と脂肪の間には「1.5 T(テスラ)の装置で 220 Hz」という周波数のズレ(ケミカルシフト)があります。
周波数が違うということは、お互いのプロトンが横に倒れた瞬間から、「水と脂肪の回転スピードに差が出て、追いかけっこが始まる」ということです。
この「時間経過による2つのスピードのズレ」を巧みに利用し、グラディエントエコー(GRE)法をベースにして開発されたのがDixon(ディクソン)法(位相差法)です。
1-1. 同位相(In Phase)と逆位相(Opposed Phase)の波打ち現象
横に倒れた水と脂肪のプロトンは、時間が経つにつれて、お互いの向きが揃ったり真逆になったりを交互に繰り返します。この現象を横磁化の信号が「波打つ」と表現します。
- In Phase(同位相):水と脂肪のプロトンの向きがピッタリ同じ方向を向いて重なった状態。お互いのパワーがプラスされるため、信号は一番強くなります。
- Opposed Phase(逆位相 / 反対位相):追いかけっこの結果、水と脂肪のプロトンがちょうど「真逆(背中合わせ)」を向いた状態。お互いのパワーを打ち消し合うため、脂肪の信号が引き算された(抜かれた)状態になります。
国試では、この「同位相」と「逆位相」になる具体的なエコー時間(TE)の数値が、1.5 T装置を基準としてダイレクトに狙われます。
📊 1.5 TにおけるDixon法の絶対数値
- 2.3 ms:最初の**逆位相(Opposed)**になる(水マイナス脂肪)
- 4.5 ms:水が脂肪を1周引き離して**同位相(In)**で一致する(水プラス脂肪)
- 6.8 ms:2回目の**逆位相(Opposed)**になる
※「2.3の倍数が4.5(約4.6)」と頭の中でリズム良くセットにして暗記しておきましょう。
1-2. 連立方程式で「水」と「脂肪」を完全分離する
Dixon法の何がそんなに凄いのかというと、撮影した「In Phase(水+脂肪)」の画像と、「Opposed Phase(水-脂肪)」の画像の2枚を使って、裏で連立方程式の計算を解いている点です。
- 水だけの画像が欲しいとき:$$In Phase + Opposed Phase = (水 + 脂肪) + (水 – 脂肪) = 2 \times 水$$
- 脂肪だけの画像が欲しいとき:$$In Phase – Opposed Phase = (水 + 脂肪) – (水 – 脂肪) = 2 \times 脂肪$$
このように、足し算と引き算をするだけで、「純粋な水だけの画像(脂肪抑制像)」と「純粋な脂肪だけの画像」を、1回の撮影からきれいに区分けして同時に手に入れることができます。
1-3. Dixon法のメリットとデメリット
- ⭕️ メリット:広い視野(FOV)でもムラなく脂肪が消せる!全体の時間差(TE)の引き算で計算しているため、磁場のムラに非常に強いという特徴があります。そのため、広い範囲(広いFOV)を撮っても、画面の端までムラなくきれいに脂肪を消し去ることができます。
- ❌ デメリット:使えるシーケンスに制限がある基本的にはグラディエントエコー(GRE)法をベースにした特殊な計算プログラムが必要なため、どんな撮影にでもお気軽にチョイ足しできるわけではない、という制限があります。
第2章:国試で絶対バツをつける「STIRは脂肪選択性ではない!」
国試の文章問題では、CHESS法、Dixon法、STIR法の特徴をぐちゃぐちゃに混ぜたシャッフルひっかけ問題が頻出します。その中でも、最も多くの受験生がハメられる罠がこれです。
❌ 国試の悪魔の選択肢:「STIR法は、周波数選択的な脂肪選択性抑制法である。」
この選択肢を見たら、1秒で猛烈にバツ(×)をつけてください。
2-1. STIRは「脂肪選択性」ではない!
CHESS法やDixon法は、水と脂肪の「周波数の違い(ケミカルシフト)」をハッキリと見分けて狙撃していました。こういう手法のことを「脂肪選択性」と呼びます。
しかし、STIR法は全く違います。
STIR法は、「最初に180°パルスを打って、プロトンが起き上がってくるスピード(T1緩和時間)の差」だけを利用して、脂肪がちょうどゼロ(クロスオーバー)になる瞬間を狙い撃ち(Short TI)する手法です。
つまり、STIR法は周波数なんて1ミリも見上げていません。
2-2. グラフで理解する!STIRの原理と「ヌルポイント」
「起き上がるスピードの差で消す」という原理を、縦磁化のグラフ(T1回復曲線)のイメージで捉えてみましょう。
- マイナス100からのスタート:撮影の最初に180°パルス(反転パルス)を打つことで、プロトンが一瞬で真下(マイナス100%の方向)に叩き落とされます。
- 起き上がるスピードの差:脂肪は「せっかち」なので猛スピードで起き上がります(T1が短い)。水は「のんびり屋」なのでゆっくり起き上がります(T1が長い)。
- ヌルポイント(Null Point)の狙撃:マイナスからプラスへ回復する途中、必ず「縦磁化がゼロ(0)になる一瞬」が存在します。これをヌルポイントと呼びます。
脂肪が猛スピードで回復し、ちょうど「ゼロ(0)」のラインを通過する瞬間(1.5 Tでは約150〜170 ms付近)、水はまだ回復が遅れてマイナス側に沈んでいます。
この「脂肪がゼロの瞬間」に合わせて本番の90°パルスを打ち込むと、脂肪は信号を出せず真っ黒に消えるのです。
同時に、グラフを想像するとある事実に気づきます。
「もし脂肪と同じスピードで起き上がってくる組織(血腫や造影剤など)があったら、脂肪と一緒にゼロのタイミングに重なって、巻き添えを食らって真っ黒に消えてしまう」ということです。
周波数を見て狙い撃ちしているわけではなく、ただ「起き上がるタイミングが同じ奴らをまとめて消しているだけ」。これこそが、STIR法が「脂肪選択性ではない」と言い切れる最大の理由です。
📊 脂肪抑制の3大システム・国試決定版まとめ
これで、本ノートに登場したすべての脂肪抑制技術の横の繋がりが完璧に完成しました。この表を頭に入れておけば、国試の脂肪抑制問題で失点することはもう二度とありません!
| 脂肪抑制の手法 | 抑制に利用する原理 | 脂肪選択性か? | 視野(FOV)の制限 |
| CHESS法 | 共鳴周波数差(ケミカルシフト) | ⭕️ ある | ❌ あり(磁場のムラに弱い) |
| Dixon法 | 周波数差による位相のズレ(計算) | ⭕️ ある | ⭕️ なし(広い範囲も得意) |
| STIR法 | T1緩和時間の差(起き上がり速度) | ❌ ない! | ⭕️ なし(低磁場でも確実に消せる) |


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