放射線が物質を通るとき、X線のような「非荷電粒子」はたまにドカンとぶつかって減弱していきますが、電子やアルファ線のような「荷電粒子」は少し違います。
荷電粒子は電気を帯びているため、周囲の原子と常に引っ張り合ったり反発したりして、常にブレーキをかけられながら(エネルギーを少しずつ失いながら)進んでいきます。
このブレーキの強さを表すのが「阻止能」と「LET(線エネルギー付与)」です。 どちらも「エネルギーのやり取り」を表す似たような言葉ですが、国家試験では決定的な違いが必ず狙われます。今回はその違いを「財布のお金」に例えて完全にマスターしましょう!
1. 質量阻止能:放射線が「失った」総額(放射線目線)
- 単位: J・m²・kg⁻¹
- 主語: 荷電粒子(放射線)自身
- 超・直感定義: 荷電粒子が物質中を進むときに、「自分の財布から無くなったエネルギーの合計」。
荷電粒子が物質の中を進むとき、周囲の電子とぶつかってエネルギーを奪われたり(衝突損失)、原子核の近くで曲げられてX線を出してしまったり(制動放射損失)します。
これらを含めて、とにかく荷電粒子の初期エネルギーから「失われた分すべて」をカウントするのが阻止能です。
$$
S=S_{\text{col}}+S_{\text{rad}}
$$
(※ S(col):衝突阻止能、 S(rad):放射阻止能)
質量阻止能は、この阻止能 S を物質の密度 ρ で割る(質量ベースにする)ことで、物質の密度の違いによる影響を排除したものです。
$$
\frac{S}{\rho}=\frac{1}{\rho}\frac{dE}{dx}
$$
2. LET(線エネルギー付与):道端に「落ちた」金額(物質目線)
- 単位: J・m⁻¹ (または keV/μm)
- 主語: 物質(通り道)
- 超・直感定義: 荷電粒子が進んだその「道筋(局所)」に、「確実に置いていかれた(付与された)エネルギー」。
LETは、質量阻止能と違い「密度で割らない(質量の文字がつかない)」ため、単位は長さあたり(m⁻¹)になります。ここまでは単位ルールの通りですね。
最大の違いはここからです。
荷電粒子が周囲の電子を勢いよく弾き飛ばしたとき、その二次電子がものすごいスピードを持ってはるか遠くまで飛んでいってしまうことがあります。これをデルタ線(δ線)と呼びます。
LET(制限LET)の考え方では、「遠くまで飛んでいってしまったδ線のエネルギーは、この道筋(局所)に落ちたエネルギーじゃないからノーカウント!」として、計算から差し引きます。
また、遠くに飛んでいく制動放射(X線)のエネルギーももちろん除外します。
$$
L_\Delta=\left(\frac{dE}{dx}\right)_\Delta
$$
(※ Δ は「これ以上のエネルギーを持って遠くへ飛んでいった電子は計算から除外する」という足切りラインの数値を表します)
3. 国試必勝!2つの違いを「財布」で例えると?
あなたが10万円の入った財布(荷電粒子)を持って、商店街(物質)を歩いているとします。
- 質量阻止能(失った総額):商店街を抜けた後、財布を見たら5万円減っていました。「途中で落としたお金」も「遠くの銀行に振り込んだお金(制動放射)」も「遠くの友達に投げ渡したお金(δ線)」も、すべて含めて「財布から無くなった分(5万円)」を計算するのが阻止能です。
- LET(道筋に落ちた金額):商店街の道端に「実際にチャリンと落ちて、そこにとどまっているお金」だけをカウントします。遠くに飛んでいったお金(δ線や制動放射)は、その場には無いので計算に入れません。
💡 国試チェックポイント:何が差し引かれているか?
「線エネルギー付与(制限LET)」の定義文で、**「Δ(デルタ)を超える運動エネルギーを有するすべての二次電子(δ線)のエネルギーは差し引かれている」**という文言が超頻出です!
「阻止能=全部」「LET=遠くに逃げた分は引く」と頭に叩き込んでおきましょう。
4. まとめ:今回の脳内メモリ節約ポイント
- 対象はどちらも「荷電粒子」。
- 質量阻止能(J・m²・kg⁻¹): 荷電粒子目線。失ったエネルギーの「全額」。(密度で割る)
- LET(J・m⁻¹): 物質目線。その場に置いていったエネルギー。(密度で割らない=長さあたり)
- LETは、遠くへ逃げる「制動放射」や、足切りライン Δ を超える二次電子「δ線」の分を差し引いて考える。


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