呼吸器疾患:肺がん(Lung Cancer)
肺がんは、日本人の部位別がん死亡数でトップクラスの疾患。
学習の最大のポイントは、「どの細胞からがんが発生したか(組織型)」によって、タバコとの関連性、悪性度(予後の悪さ)、そして治療方針が全く変わるという点にある。
1. 【超重要】悪性度(予後不良)のランキング
試験対策として、まずは各組織型の「タチの悪さ」の順番をイメージとして焼き付けておく。
悪性度が高く、予後が悪い(生存率が低い)順に並べると以下のようになる。
予後不良(悪性度)の順:
小細胞癌 > 大細胞癌 > 扁平上皮癌 > 腺癌
- 小細胞癌(ワースト1位): 進行スピードが異常に早く、見つかった時にはすでに全身に転移していることが多い最凶の肺がん。
- 腺癌(比較的マシ): 肺がんの中では最も進行がゆるやかで、早期発見できれば手術で完治が狙える。最近はよく効く特効薬(分子標的薬)も多い。
この「小細胞癌は別格でヤバい」というイメージを持った上で、詳しい分類を見ていく。
2. 肺がんの組織型分類と特徴
治療方針を決めるため、肺がんは大きく**「小細胞癌(SCLC)」と「非小細胞癌(NSCLC)」**の2グループに分けて考えるのが世界的な絶対ルールだ。
① 非小細胞癌(NSCLC:肺がんの約85%)
進行が比較的ゆるやかで、**第一選択は「手術」**になるグループ。
- 腺癌(せんがん):
- 割合: 肺がんの中で最多(約50%)。**女性では約70%**を占める。
- 特徴: タバコとの関連性が薄い(吸わない女性でもなる)。肺の奥深く(末梢の肺野部)にできやすい。
- 扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん):
- 割合: 約30%。
- 特徴: タバコとの関連性が極めて強い。太い気管支の近く(肺門部・中心)にできやすいため、早期から咳や血痰が出やすい。
- 大細胞癌(だいさいぼうがん):
- 割合: 少数。
- 特徴: 非小細胞癌の中では発育が早く、転移しやすい(予後が悪い)。
② 小細胞癌(SCLC:肺がんの約15%)
- 特徴: タバコとの関連性が極めて濃厚。増殖スピードが最速で、悪性度ワースト1位。
- 治療の基本: 進行が早すぎて手術が間に合わないため、初めから抗がん剤(化学療法)と放射線治療のコンボがメインになる。
3. 組織型・進行度別の治療戦略
放射線技師の国家試験で頻出の「どの癌に、どんな放射線を当てるか」を整理する。
非小細胞癌(腺癌・扁平上皮癌など)の治療
- 基本: 早期なら手術で切り取るのが第一選択。
- 末梢型 Ⅰ期(早期で奥の方にある場合):高齢などで手術ができない場合、ピンポイントで大線量を当てる**「定位放射線治療(SBRT)」**が非常に有効。
- 局所進行癌(手術不能だが、遠隔転移はない場合):抗がん剤(シスプラチンなど)と放射線を同時に行う**「化学放射線療法」**が適応となる。また、手術の前に癌を小さくするための「術前照射」が行われることもある。
小細胞癌の治療
病気の広がりによって「限局型(LD:片側の胸の中だけに留まっている)」と「進展型(ED:全身に広がっている)」に分ける。
- 限局型(LD-SCLC)の治療:ごく初期(Ⅰ期)を除き、手術ではなく**「化学放射線療法(1日多分割照射など)」**が標準治療となる。薬や放射線はよく効いて一時的に消えるが、再燃(再発)しやすく予後不良である。
- 予防的全脳照射(PCI:Prophylactic Cranial Irradiation):初期治療で癌が完全に消えた(CR:完全奏効)としても、小細胞癌は**「脳へ転移しやすい」**という厄介な性質がある。そのため、目に見えない脳転移を未然に防ぐ目的で、あらかじめ脳全体に放射線を当てるPCIが適応となる。
💡 なぜ「小細胞」と「大細胞」という名前なのか?
1. 小細胞癌(Small Cell Lung Cancer):細胞が「小さくて未熟」
- 由来: 顕微鏡で見ると、リンパ球(白血球の一種)くらいの**「小さくて丸っこい細胞」**がびっしり詰まっている。
- なぜ最悪(予後不良)なのか?: 生物学的に**「未熟な細胞」**だからだ。人間でいうと「ブレーキの効かない暴走する子供」のようなもので、エネルギーのすべてを「増殖」と「転移」に使ってしまう。だから、小さくてもすぐ全身に広がってしまうんだ。
2. 大細胞癌(Large Cell Lung Cancer):細胞が「大きくて形がバラバラ」
- 由来: 顕微鏡で見ると、腺癌や扁平上皮癌にもなりきれなかった**「大きくて不揃いな細胞」**がゴロゴロしている。
- なぜ悪いのか?: 「どの組織(腺や皮膚)にもなれなかった、出来損ないの巨大な細胞」といったイメージだ。特徴がないのが特徴で、とにかく細胞がデカくて増える勢いが強いため、非小細胞癌の中では最も予後が悪いグループに入る。
肺がんの分類と特徴まとめ表
| 組織型 | 予後(悪性度) | タバコとの関係 | 発生部位 | 治療の第一選択 |
| 小細胞癌 | 最悪(転移早い) | 極めて濃厚 | 中心(肺門) | 化学放射線療法 |
| 大細胞癌 | 悪い | 関連あり | 末梢(肺野) | 手術 |
| 扁平上皮癌 | 中間 | 極めて濃厚 | 中心(肺門) | 手術 |
| 腺癌 | 比較的良い | 薄い(女性に多) | 末梢(肺野) |
呼吸器疾患:肺炎(はいえん)
1. 炎症の場所による分類
レントゲンやCTでどこが白くなっているか、画像診断において非常に重要な切り分けだ。
- 大葉性(だいようせい)肺炎: 肺胞の中に炎症が広がる。肺の「葉」という大きな単位でベッタリと白く写るのが特徴。
- 原因菌: 肺炎球菌など。
- 間質性(かんしつせい)肺炎: 肺胞の壁(間質)に炎症が起きる。網目状の影が広がり、進行すると肺が硬くなる「肺線維症」へ移行する。
- 原因: ウイルス、膠原病、薬剤の副作用など。
2. 感染した「状況」による分類
患者がどこで感染したかによって、原因菌の予測や治療薬が変わる。
- 市中肺炎(しちゅうはいえん): ふつうの生活の中で感染するもの。
- 原因菌: 肺炎球菌(最多)、マイコプラズマなど。
- 院内肺炎(いんないはいえん): 入院して48時間以上経ってから発症するもの。もともと体力が落ちている人が多いため、薬が効きにくい耐性菌が原因になりやすい。
3. 特殊な肺炎:誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
高齢者に非常に多く、これまでに学んだ「解剖」の知識が直結する分野だ。
- メカニズム: 食べ物や唾液が誤って気管に入り(誤嚥)、一緒に入り込んだ細菌が肺で繁殖することで起きる。
- 解剖学的特徴: 気管支の構造上、**「右主気管支」**は太くて垂直に近いため、異物が入り込みやすい。そのため、右肺の下葉に発症することが圧倒的に多いんだ。
4. マイコプラズマ肺炎(非定型肺炎)
若い人に多く、「歩く肺炎」とも呼ばれる特徴的な肺炎だ。
- 特徴: 細菌とウイルスの中間のような性質を持つ「マイコプラズマ」が原因。
- 症状: **「頑固な乾いた咳」**が長く続くのが特徴。一般的な抗生物質(ペニシリン系など)が効かないため、特殊な薬(マクロライド系など)を使う
呼吸器疾患:肺結核(はいけっかく)
結核は、現代では薬で治る病気だが、かつては人類にとって最大の脅威の一つだった。
1. 時代劇の定番「労咳(ろうがい)」
江戸時代から明治・大正にかけて、結核は**「労咳(ろうがい)」**と呼ばれ、不治の病として恐れられていた。
- イメージ: 時代劇で、痩せ細った若者が白い布に**「血を吐く(喀血)」**シーンがあれば、それは十中八九、結核の設定。
- 新選組の沖田総司: 彼が若くして亡くなった原因も結核だと言われている。体力を削り取り、内側から体を蝕んでいく様子から「労(つかれる)咳」という名がついたんだ。
2. なぜ「血を吐く」のか?(病態の理屈)
結核菌は、肺の中に**「空洞(くうどう)」**という穴を作る性質がある。
- メカニズム: 肺の組織が結核菌によってチーズのようにドロドロに溶かされ(乾酪壊死)、それが気管支を通じて外に出ると、肺の中にポッカリと穴が開く。
- 喀血(かっけつ): その空洞の壁にある血管が破れると、咳と一緒に鮮血が噴き出す。これが時代劇でお馴染みの「喀血」の正体だ。
3. 現代の脅威:空気感染(飛沫核感染)
現代でも結核が特別な扱いを受けるのは、その感染経路が**「空気感染」**だからだ。
- 通常のウイルス(飛沫感染): 咳のしぶきは重いので、すぐに地面に落ちる。
- 結核菌(空気感染): しぶきが乾燥して「飛沫核」になると、非常に軽いため、空気中を長時間ふわふわと漂い続ける。
- 対策: 病院では、通常のマスクでは防げないため、高性能な**「N95マスク」を使用し、空気が廊下に出ない「陰圧室」**に患者を収容する厳重な警戒が必要になるんだ。
4. 画像診断(X線・CT)のポイント
結核菌は「酸素が大好き」な性質があるため、酸素が豊富な**肺の上の方(肺尖部)**に好んで住み着く。
- 肺尖部(はいせんぶ)の影: 左右の鎖骨のあたりに、白くモヤモヤした影や、丸い「空洞」が見えるのが典型的なサインだ。
- 粟粒結核(ぞくりゅうけっかく): 免疫が極端に落ちると、菌が血液に乗って全身の肺にバラまかれる。レントゲンでは、肺全体に**「アワ(粟)の粒」のような小さな点**がびっしりと写る。これは非常に重篤な状態だ。
呼吸器疾患:COPD(慢性閉塞性肺疾患)
1. 【要注意】COPDの定義と「喘息」の扱い
昔の教科書と今の医学で大きく変わっている。
- 現在のCOPDの定義:**「肺気腫」と「慢性気管支炎」**の2つを総称してCOPDと呼ぶ。
- 気管支喘息は別物!喘息も「息が吐きにくくなる(閉塞性)」病気だが、喘息は治療で「元に戻る(可逆性)」のに対し、COPDはタバコなどで肺が破壊されて「元に戻らない(不可逆性)」という決定的な違いがある。そのため、現在は「喘息」をCOPDには含めないのが一般的。
2. COPDの2大原因疾患
COPDの圧倒的ナンバーワンの原因は**「喫煙(タバコ)」**、次いで「大気汚染」だ。タバコの煙という毒ガスを長年吸い続けた結果、以下の2つのダメージが蓄積する。
- ① 肺気腫(はいきしゅ): 肺胞の壁が溶けて壊れる(※メイン病態)。
- ② 慢性気管支炎: 気管支に慢性的な炎症が起き、痰がドロドロに出続ける。
この2つは同時に起きることが多い。
3. 肺気腫の病態メカニズム(伸び切った風船)
「吸気はできるが呼気が十分にできない」という現象は、**「古いゴム風船」**をイメージすると一発で理解できる。
- 正常な肺: 新しい風船。息を吸って膨らませた後、ゴムの弾力(縮む力)で自然に空気が押し出される(呼気)。
- 肺気腫の肺: タバコの煙で肺胞の壁が破壊され、隣の肺胞とくっついて大きな袋(ブラ)になってしまう。弾力を失った「古くて伸び切ったゴム風船」状態になるため、空気を入れることはできても、自力で縮んで空気を押し出すこと(呼気)ができなくなる。
- 結果(空気の閉じ込め): 吐き出せなかった空気が肺の中にどんどん溜まり、肺が異常にパンパンに膨らみ続ける(過膨張)。
4. 画像診断(X線所見)と診断のロジック
この「空気が溜まってパンパンに膨らんだ肺」は、レントゲンに顕著なサインとして現れる。
- 透過性の亢進(肺が黒く抜ける):空気が異常に溜まっているため、X線がスースー通り抜けてしまい、正常な肺よりも真っ黒に写る。
- 横隔膜の平坦化・低下:パンパンに膨らんだ肺が、すぐ下にある**「横隔膜」を上からギュウギュウに押し下げる。** ドーム状だった横隔膜が平らになり、通常よりも低い位置(T12より下など)に押し込まれる。
- 滴状心(てきじょうしん):左右に膨らんだ肺に両側から挟み込まれるため、心臓が「水滴のように細長く」引き伸ばされて写る。
💡 なぜ「吸気」と「呼気」の2枚を撮るのか?(メモのオチ)
正常な人なら、息を思い切り吐いた時(呼気相)は、肺がしぼんで白っぽく写り、横隔膜も上に上がる。
しかし肺気腫の人は、息を吐こうとしても空気が抜けず肺が縮まないため、「吸気」と「呼気」でレントゲンの黒さや横隔膜の高さがほとんど変わらない。 これを確認することで「空気が閉じ込められていること(Air trapping)」を確定診断できる。
COPD(肺気腫)まとめ表
| 項目 | 特徴・所見 | 理屈・イメージ |
| 原因 | 喫煙、大気汚染 | タバコによる肺の破壊 |
| 含まれる病気 | 肺気腫、慢性気管支炎 | ※「気管支喘息」は除外する! |
| 病態の本質 | 弾力性の低下、呼気障害 | 伸び切った古いゴム風船 |
| X線所見① | 透過性の亢進(真っ黒) | 吐き出せない空気が溜まっている |
| X線所見② | 横隔膜の平坦化・低下 | 膨らんだ肺に横隔膜が押し潰される |
| X線所見③ | 滴状心、樽状胸郭 | 肺に圧迫されて心臓や胸郭が変形する |
| 特殊撮影 | 吸気・呼気比較撮影 | 呼気でも肺が縮まない(黒いまま)のを確認 |
呼吸器・循環器疾患:肺塞栓症(はいそくせんしょう)
肺塞栓症は、静脈の中で固まった血の塊(血栓)が血流に乗って運ばれ、肺動脈を閉塞させる病態だ。 特に「エコノミークラス症候群」としてよく知られている。
1. 発症のメカニズム
肺塞栓症の最大の原因は、足の深いところを通る静脈に血栓ができる**「下肢深部静脈血栓症(DVT)」**だ。
- 原因となる状況:
- 長期臥床(ちょうきがしょう): 手術後や病気で寝たきりの状態。
- 長距離旅行: 飛行機や車などで長時間同じ姿勢で座り続けること。
- プロセス:
- 足を動かさないことで静脈の血流が淀み、大きな血栓(血の塊)ができる。
- 立ち上がって動き出した瞬間に、その血栓が剥がれて血流に乗る。
- 右心房・右心室を経由して肺動脈に到達し、血管を詰まらせる。
2. 主な症状と診断
血管が突然詰まるため、非常に急激な症状が現れる。
- 突然の呼吸困難: ガス交換ができなくなるため、急激に息苦しくなる。
- 胸痛: 肺の組織がダメージを受け、鋭い痛みが生じることがある。
- 冷や汗・血圧低下: 広範囲で詰まると右心室に急激な負荷がかかり、ショック状態(右心不全)に陥る。
3. 代表的な治療法と予防
命に関わる疾患であるため、迅速な対応が必要となる。
- 血栓溶解療法(けっせんようかいりょうほう): 点滴薬によって、肺動脈に詰まった血栓を溶かして血流を再開させる。
- 下大静脈フィルター(IVCフィルター)留置: 足から心臓へ戻る大きな道である「下大静脈」に、傘のような形のフィルターを設置する。これにより、足で新しい血栓ができても、それが心臓や肺に飛んでいくのを物理的に阻止する。
- 抗凝固療法(こうぎょうこりょうほう): 血液をサラサラにする薬(ヘパリンやワーファリンなど)を使い、新たな血栓ができるのを防ぐ。
呼吸器・循環器疾患:肺塞栓症(はいそくせんしょう)
肺塞栓症は、静脈の中で固まった血の塊(血栓)が血流に乗って運ばれ、肺動脈を閉塞させる病態だ。 特に「エコノミークラス症候群」としてよく知られている。
1. 発症のメカニズム
肺塞栓症の最大の原因は、足の深いところを通る静脈に血栓ができる**「下肢深部静脈血栓症(DVT)」**である。
- 原因となる状況:
- 長期臥床(ちょうきがしょう): 手術後や病気で寝たきりの状態。
- 長距離旅行: 飛行機や車などで長時間同じ姿勢で座り続けること。
- プロセス:
- 足を動かさないことで静脈の血流が淀み、大きな血栓(血の塊)ができる。
- 立ち上がって動き出した瞬間に、その血栓が剥がれて血流に乗る。
- 右心房・右心室を経由して肺動脈に到達し、血管を詰まらせる。
2. 主な症状と診断
血管が突然詰まるため、非常に急激な症状が現れる。
- 突然の呼吸困難: ガス交換ができなくなるため、急激に息苦しくなる。
- 胸痛: 肺の組織がダメージを受け、鋭い痛みが生じることがある。
- 冷や汗・血圧低下: 広範囲で詰まると右心室に急激な負荷がかかり、ショック状態(右心不全)に陥る。
3. 代表的な治療法と予防
命に関わる疾患であるため、迅速な対応が必要となる。
- 血栓溶解療法(けっせんようかいりょうほう): 点滴薬によって、肺動脈に詰まった血栓を溶かして血流を再開させる。
- 下大静脈フィルター(IVCフィルター)留置: 足から心臓へ戻る大きな道である「下大静脈」に、傘のような形のフィルターを設置する。これにより、足で新しい血栓ができても、それが心臓や肺に飛んでいくのを物理的に阻止する。
- 抗凝固療法(こうぎょうこりょうほう): 血液をサラサラにする薬(ヘパリンやワーファリンなど)を使い、新たな血栓ができるのを防ぐ。
呼吸器疾患:無気肺(むきはい)
無気肺とは、肺の含気量(空気の量)が減少し、肺の容積が小さくなった状態を指す。 「肺が膨らんでいない」という点では気胸と似ているが、そのメカニズムは大きく分けて2つのパターンがある。
1. 無気肺の2大原因メカニズム
① 気道の閉塞(吸収性無気肺)
空気の通り道である気管支が「内側」から塞がってしまうパターンだ。
- 主な原因: 肺がん(気管支を塞ぐ腫瘍)、異物誤飲、濃い痰による詰まり。
- プロセス:
- 気道が完全にブロックされる。
- 閉塞部より先にある空気が、周囲の毛細血管に吸収されてなくなる。
- 新しい空気が入ってこないため、その先の肺胞が真空パックのように潰れる。
② 肺の周囲からの圧迫(圧迫性無気肺)
肺の外側から強い力が加わり、肺が「外側」から押し潰されるパターンだ。
- 主な原因: 大量の胸水(肺の周りに水が溜まる)、気胸(肺の周りに空気が漏れる)、巨大な肺がん(腫瘍による直接の圧迫)。
- プロセス:
- 肺の外側(胸膜腔)に水や空気が溜まり、肺を圧迫する。
- 圧力を受けた肺がしぼみ、空気が追い出される。
2. 画像診断(X線・CT)のポイント
肺が潰れると、その周囲の構造物にも変化が現れる。
- 透過性の低下(白く写る): 空気がなくなって組織が密集するため、レントゲンでは正常な肺よりも白く写る。
- 縦隔(じゅうかく)の移動: 肺が縮むと、そのスペースを埋めるように**「心臓や気管が、病変のある側(潰れた側)へ引き寄せられる」**のが大きな特徴だ。
- 横隔膜の挙上: 肺が小さくなるため、その下の横隔膜が上に引っ張り上げられる。
肺の中に水が溜まってしまい、溺れているような状態になる**「肺水腫(はいすいしゅ)」**について解説する。 なぜ心臓の病気で肺に水が溜まるのか、そしてなぜ「座ると楽になる(起坐呼吸)」のか、そのメカニズムを紐解いていこう。
呼吸器・循環器疾患:肺水腫(はいすいしゅ)
肺水腫とは、肺胞の周りにある毛細血管から水分が漏れ出し、空気が入るべき肺胞の中に水が溜まってしまった状態を指す。
1. 肺水腫の原因(2つのルート)
肺に水が漏れ出す原因は、大きく分けて「心臓」によるものと「それ以外」に分類される。
- 心源性(しんげんせい)肺水腫:心臓が原因
- メカニズム: 左心不全などが起きると、全身に血を送れず、手前の「肺」で血液が激しく渋滞(うっ血)する。血管内の圧力がパンパンに高まり、耐えきれなくなった水分が肺胞へと染み出してしまう。
- 非心源性(ひしんげんせい)肺水腫:肺そのもののダメージ
- 肺炎・刺激性ガスの吸入: 炎症や毒ガスによって肺胞の壁(毛細血管)が壊れ、そこから水分が漏れ出す。
- 尿毒症: 腎不全によって排泄できない水分が体に溜まり、血管から溢れ出す。
2. 特徴的な症状:起坐呼吸(きざこきゅう)
肺水腫の患者は、横になって寝ることができず、**「座った姿勢」**で息をしようとする。これを起坐呼吸と呼ぶ。
- なぜ座ると楽なのか?:
- 横になると: 下半身の血液が心臓・肺へと戻ってきやすくなり、肺の渋滞(うっ血)がさらに悪化して苦しくなる。
- 座ると: 重力によって血液が下半身に溜まり、肺へ戻る血液量が減る。その結果、肺のうっ血が一時的に軽くなり、呼吸が少し楽になるんだ。
3. 画像診断(X線所見)のポイント
肺の中に水(液体)が溜まっているため、レントゲンでは以下のような特徴が出る。
- バタフライ・シャドウ(蝶形影): 左右の肺門(肺の付け根)を中心に、蝶が羽を広げたような形で、境界がぼやけた白い影が広がる。
- カーリー線(Kerley’s line): 肺の末梢(端の方)に見られる、水分が溜まったことで強調された細い横線。
呼吸器疾患:胸腔内の貯留物(気胸・血胸など)
胸腔は、肋骨(胸壁)と肺の間にあるわずかな隙間のことだ。ここに「空気・液体・膿」などが溜まると、肺が膨らむスペースがなくなり、呼吸困難を引き起こす。
1. 貯留物の種類による分類
溜まっているものの正体によって呼び名が変わる。
- 気胸(ききょう): **「空気」**が溜まった状態。肺に穴が開くか、胸壁に傷がつくことで空気が入り込む。
- 水胸(すいきょう): **「水分(胸水)」**が溜まった状態。心不全や炎症などが原因。
- 血胸(けっきょう): **「血液」**が溜まった状態。事故などの外傷や、血管の破裂が原因。
- 膿胸(のうきょう): **「膿(うみ)」**が溜まった状態。細菌感染(肺炎の悪化など)が原因。
2. 気胸(ききょう)の深掘り
国家試験でも特に出題頻度が高いのが気胸だ。肺がパンクしたタイヤのようにしぼんでしまう病態を指す。
① 分類と原因
- 自然気胸: 健康な若い男性(長身・痩せ型)に多い。肺の表面にできた「ブラ(気腫性嚢胞)」という空気の袋が破れることで発症する。
- 外傷性気胸: 事故で肋骨が折れて肺に刺さったり、刃物で刺されたりして外から空気が入る。
- 医原性気胸: 検査(生検)や処置の最中に、誤って肺を傷つけてしまう。
② 画像診断(X線所見)のポイント
- 肺野の透過性亢進: 肺がない(空気だけの)部分は、血管の影(肺紋理)が消えて真っ黒に写る。
- 虚脱肺(きょだつはい): 中心部にベチャッと萎縮した肺の塊が見える。
- 肺欠損線(臓側胸膜線): しぼんだ肺の輪郭が細い線として見える。
- 縦隔(じゅうかく)の移動: 溜まった空気の圧力が高い場合、心臓や気管が**「正常な側(健側)」へ押しやられる**。(※無気肺は「病変側」に引き寄せられるので、逆の動きになるのが重要だ!)
全身性疾患:サルコイドーシス
サルコイドーシスは、境界の鮮明な「非乾酪性(ひかんらくせい)上皮細胞肉芽腫」が全身の臓器にできる原因不明の疾患。
1. 疫学と好発(誰に多いか?)
- 年齢・性別:20歳代の若年層と、50〜60歳代の中高年女性にピークがある(二峰性)。全体としては女性にやや多い。
- 経過: 多くの場合は自然に治癒するが、心臓や神経に病変が及ぶと重症化することがある。
2. 特徴的な症状と出現部位
「全身性」という名の通り、多くの臓器に症状が出る。
- 眼:ぶどう膜炎(霧視:かすみ目、飛蚊症など)。
- 皮膚:結節性紅斑(すねなどに赤く盛り上がった痛みを伴う発疹)。
- リンパ節: 頸部や鼠径部のリンパ節が腫れる。
- その他: 耳下腺の腫脹、心筋への肉芽腫(不整脈の原因)、神経麻痺など。
3. 胸部X線・画像診断のポイント(超重要)
サルコイドーシスの診断において、胸部写真は最も重要な情報源の一つ。
- 両側肺門リンパ節腫脹(BHL:Bilateral Hilar Lymphadenopathy): 左右両方の肺の付け根(肺門)のリンパ節が、ジャガイモのような塊状に腫れ上がる。これが初発症状として見つかることが多い。
- 気管分岐角の拡大: 気管のすぐそばにあるリンパ節(気管傍リンパ節)が腫れることで、左右の気管支が分かれる角度が押し広げられて大きくなる。
- 肺野の陰影: 進行すると、気管支や血管の周り(間質)に沿って不規則な網目状や粒状の影が見られるようになる。
塵肺(じんぱい):外から吸い込んだ「粉」の病気
塵肺は、仕事場などで長期間、微細な粉塵を吸い込み続けることで、肺の組織が反応して硬くなってしまう病気の総称だ。
- 原因:粉塵や微粒子の長期吸引。
- 石綿(アスベスト): 建設資材などに使われていた。吸い込むと「石綿肺」になり、数十年後に悪性中皮腫や肺がんを引き起こすリスクが高い。
- 珪肺(けいはい): トンネル掘削などで石英の粉を吸い込むことで起きる。
- 病態: 吸い込んだ粒子を排除しようとして炎症が起き、肺が繊維化(硬くなる)してガス交換ができなくなる。
肺線維症(はいせんいしょう):肺が「カチカチ」になる状態
肺の壁(間質)に慢性的な炎症が起き、本来はやわらかい肺が傷跡のように硬く(繊維化)なってしまう病態だ。
- 定義: びまん性間質性肺炎とほぼ同じ意味で使われる。「びまん性」とは、肺全体に広がるという意味だ。
- 原因疾患(この状態を引き起こすもの):
- 膠原病(こうげんびょう): 自分の免疫が自分を攻撃する。
- 塵肺: 粉塵による刺激。
- サルコイドーシス: 全身に肉芽腫ができる。
- 好酸球性肉芽腫症: 特定の白血球が関与する炎症。
- 画像所見: レントゲンやCTでは、肺の端の方に「網目状の影」や、ハチの巣のように見える**「蜂巣肺(ほうそうはい)」**が見られる。
肺真菌症(はいしんきんしょう):肺に生えた「カビ」の病気
「真菌」とはカビのこと。健康な人には無害なカビでも、免疫が落ちている人などの肺の中で増殖して悪さをする。
- 代表的な原因菌: アスペルギルス(最も有名)。
- アスペルギローマ(肺曲菌腫):
- 肺結核などの古い空洞(穴)の中に、アスペルギルスが入り込んで繁殖し、**「カビの塊(真菌球)」**を作る。
- 画像所見:
- レントゲンやCTで、空洞の中に丸い影が見える。その影の上に隙間(空気)が見えるのが特徴で、これを**「大気圏(エア・クレセント)サイン」**と呼ぶ。

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