腹部のエックス線撮影は、胸部のように骨や心臓を見るのではなく、「空気(黒)」と「液体・臓器(白)」のコントラストを見分ける検査です。
特に救急の現場では、「重力」を利用してガスや液体を移動させることで、腸閉塞(イレウス)や消化管穿孔(穴があくこと)といった命に関わるサインをあぶり出します。それぞれの体位のロジックをマスターしましょう!
第1章:腹部仰臥位正面撮影(基本の寝た状態)
まずは基本となる仰向け(仰臥位)の撮影です。お腹全体のガスパターンや、結石の有無などを確認します。
- 撮影範囲:上は横隔膜面から、下は恥骨結合上縁まで。左右は側腹線条(Properitoneal fat line)が必ず入るようにします。
- 撮影条件:管電圧は80kV前後(胸部よりかなり低めにして、軟らかい組織のコントラストを出します)。
- 呼吸のコントロール:なぜ「呼気停止」なのか?
- ロジック:息を「吐ききった状態(呼気)」で止めます。息を吐くと横隔膜が上に引き上げられ、腹部の観察領域が上に広がります。また、お腹の厚みが薄くなるため、エックス線の散乱が減って画像がクリアになります。
- 観察対象:ガス陰影、脂肪陰影、水陰影、骨陰影、尿路結石など。
第2章:腹部立位正面撮影(重力でサインを引き出す)
患者さんが立てる状態であれば、必ず「立位」でも撮影します。重力がかかることで、以下の2つの超重要サインが現れます。
1. 遊離ガス(フリーエアー)
- 原因:胃や腸などの消化管に穴が開き(消化管穿孔)、お腹の中(腹腔内)に空気が漏れ出した状態です。
- 見え方:空気は軽いので、立位になると一番上まで昇っていきます。結果として、横隔膜の直下に「三日月状の黒い透亮像」としてハッキリと描出されます。これは緊急手術のサインです。
2. 気体液面像(ニボー / 鏡面像)
- 原因:腸が詰まって動かなくなる「イレウス(腸閉塞)」の代表的な所見です。
- 見え方:半分だけ水が入ったペットボトルを立てて置いた時を想像してください。下には液体成分、上には気体成分が分離し、「水平な液面(ニボー)」が写ります。これが腸のあちこちに階段状に見えたらイレウスを疑います。
第3章:左側臥位撮影(立てない患者の救世主)
重症で「立つことができない」患者さんに、フリーエアー(消化管穿孔)がないかを確認するための特殊な体位です。
- 体位:左側を下にして横向きに寝かせます(左側臥位:デクビタス)。
- ロジック【国試超頻出!】:なぜ「左」を下にするのか?
- 空気は上へ向かうため、左を下にして寝ると、漏れた空気(フリーエアー)は「右側の脇腹(上側)」に集まります。
- 右側には「肝臓」という巨大で真っ白に写る臓器があります。そのため、「真っ白な肝臓」と「真っ黒な空気」が隣り合い、わずかなガスでも非常に見つけやすくなるのです!
- もし逆に「右」を下にしてしまうと、空気は「左側」に集まります。左側にはもともと胃の中にある空気(胃泡)があるため、漏れた空気と同化してしまい、診断が非常に難しくなります。
第4章:泌尿器系の撮影(KUB)
腹部撮影のバリエーションとして、泌尿器(おしっこの通り道)に特化した撮影があります。
- KUB(腎尿管膀胱単純撮影法)
- Kidney(腎臓)、Ureter(尿管)、Bladder(膀胱)の頭文字をとったものです。
- 目的:主に尿路結石を探すための撮影です。仰臥位正面撮影とほぼ同じですが、必ず「腎臓から膀胱(恥骨結合の下まで)」が1枚のフィルムに収まるように位置合わせを行います。

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