[【循環器系】臨床病理:代表的な心血管疾患の病態]

  1. 循環器疾患:心嚢液貯留と心タンポナーデ
    1. 1. 心嚢液貯留と心タンポナーデの比較
    2. 2. 病態メカニズム:心臓の拡張不全
    3. 3. 臨床徴候:ベックの三徴(Beck’s triad)
    4. 4. 画像診断・検査のポイント
    5. 心嚢液貯留 vs 心タンポナーデ まとめ表
  2. 循環器疾患:虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)
    1. 1. 狭心症(Angina Pectoris)
    2. 2. 心筋梗塞(Myocardial Infarction)
    3. 3. 関係する危険因子(リスクファクター)
    4. 4. 虚血性心疾患の比較まとめ
  3. 循環器疾患:中隔欠損症(VSD・ASD)の血行動態
    1. 1. 血流のメカニズム:なぜ「左から右」へ漏れるのか
    2. 2. 症状の理由:肺は水浸し、全身は水不足
    3. 中隔欠損症(VSD/ASD)まとめ表
  4. 循環器疾患:ファロー四徴症(TOF)〜シャント逆転のメカニズム〜
    1. 1. 疾患を構成する「4つの特徴」
    2. 2. なぜこれらが起きるのか(発生のドミノ倒し)
    3. 3. 【最重要】なぜ「右から左」へ逆流するのか(チアノーゼの理由)
    4. 4. 特徴的な症状と画像所見
    5. ファロー四徴症(TOF)のまとめ
  5. 循環器疾患:動脈硬化症と大動脈弁狭窄症
    1. 1. 動脈硬化症の病態メカニズム
      1. ① 血栓形成と血流低下(詰まるリスク)
      2. ② 血管壁の脆弱化(破れるリスク)
    2. 2. 大動脈弁狭窄症(AS)の4つの治療アプローチ
      1. 【外科手術】(胸を開いて直接アプローチ)
      2. 【カテーテル治療】(血管から管を通してアプローチ)
    3. 大動脈弁狭窄症(AS)治療の比較まとめ表
  6. 循環器疾患:大動脈弁閉鎖不全症(AR)
    1. 1. 病態メカニズム:扉が閉まらない「逆流」の病
    2. 2. 臨床症状と特徴
    3. 3. ARの治療アプローチ
    4. AS(狭窄)と AR(閉鎖不全)の比較まとめ表
  7. 循環器疾患:心不全(左心不全と右心不全)
    1. 1. 心不全の本態
    2. 2. 左心不全(肺の渋滞)
    3. 3. 右心不全(全身の渋滞)
    4. 4. 左心不全と右心不全の比較まとめ
  8. 循環器・内分泌疾患:高血圧症の分類と病態
    1. 1. 血圧の診断基準
    2. 2. 高血圧の2大分類
      1. ① 本態性(ほんたいせい)高血圧症(全体の約80%)
      2. ② 二次性(にじせい)高血圧症(全体の約20%)
    3. 3. 【超重要】二次性高血圧症の代表的な原因疾患
  9. 血液・脳血管疾患:血友病ともやもや病
    1. 1. 血友病(Hemophilia)
    2. 2. もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)

循環器疾患:心嚢液貯留と心タンポナーデ

心膜腔(心臓を包む袋の中)に液体が溜まる現象を総称して「心嚢液貯留(しんのうえきちょりゅう)」と呼ぶが、その中で心臓の拍動が妨げられるほど圧迫が強まった状態を「心タンポナーデ」と定義する。

1. 心嚢液貯留と心タンポナーデの比較

両者の違いは、貯留した液体の「量」だけでなく、「溜まるスピード」に大きく依存する。

  • 心嚢液貯留:心膜腔に液体が溜まっている状態そのものを指す。ゆっくりと液体が溜まる場合、心膜が徐々に伸びて適応するため、数百ml〜1リットル以上溜まっても心臓への圧迫が少なく、無症状で経過することがある。
  • 心タンポナーデ:溜まった液体によって心膜内の圧力が急上昇し、心臓(特に右心系)が押し潰された状態。急激な出血(心破裂や外傷など)の場合、わずか100〜200ml程度の貯留でも心膜が伸びる暇がなく、あっという間に心タンポナーデへと至る。

2. 病態メカニズム:心臓の拡張不全

心タンポナーデの本態は、外圧による「心臓の拡張障害」である。

  • 右室の虚脱: 心室の中でも壁が薄い右心室は、外からの圧力に弱い。液体に押されて右室が十分に膨らめなくなると、全身からの静脈血を受け入れられなくなる。
  • 心拍出量の低下: 右室へ戻る血液が減れば、当然左室から全身へ送る血液も減り、ショック状態(低血圧)を引き起こす。

3. 臨床徴候:ベックの三徴(Beck’s triad)

心タンポナーデを疑うべき3つの代表的なサイン。

  1. 低血圧: 心拍出量の激減による。
  2. 静脈圧上昇(頸静脈怒張): 右心房へ血液が戻れず、首の静脈が盛り上がる。
  3. 心音微弱: 貯留した液体が壁となり、聴診器で心音が聞こえにくくなる。

4. 画像診断・検査のポイント

放射線技師が画像所見から病態の緊急性を判断するための指標。

  • 心エコー(最優先): 心周囲の無エコー域(液貯留)に加え、**「右房・右室の拡張期虚脱(コラプス)」**の有無を確認。これが心タンポナーデ確定の根拠となる。
  • CT: 心膜腔の高吸収(出血)または低吸収(水成分)の貯留を確認。
  • 胸部X線: 心影の拡大。急激な貯留では心影の変化が乏しいこともあるため注意を要する。

心嚢液貯留 vs 心タンポナーデ まとめ表

項目心嚢液貯留心タンポナーデ
定義心膜腔に液がある状態液貯留により心臓が圧迫された状態
蓄積スピード緩徐なことが多い急激なことが多い
心臓への影響軽度であればポンプ機能は維持心拍出量が著明に低下(ショック)
主な症状無症状、胸部違和感など低血圧、呼吸困難、意識障害
治療の緊急性経過観察、原因疾患の治療緊急処置(心嚢穿刺)が必要


循環器疾患:虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)

心筋へ血液を送る冠状動脈の血流が不足し、心筋が酸素不足(虚血)に陥る疾患の総称。虚血の程度や持続時間によって、狭心症と心筋梗塞に大別される。

1. 狭心症(Angina Pectoris)

冠状動脈の狭窄により、一時的に血流が不足する状態。血流が再開すれば心筋のダメージは回復する(可逆性)。発症のタイミングや病状の進行度によって分類される。

  • 労作性狭心症(安定狭心症):
    • 運動、階段昇降、強いストレスなど、心臓が激しく働き「酸素需要」が高まった時に胸痛が起こるタイプ。
    • 安静にするか、血管拡張薬(ニトログリセリン)を使用すれば数分以内に症状が消失する。
    • 血管内のプラーク(粥腫)によって道は狭くなっているが、状態は安定している。
  • 不安定狭心症:
    • プラークが破れ(破綻)、そこに血栓ができかかっている極めて危険な状態。
    • 安静にしていても発作が起こり、胸痛の頻度や持続時間が以前より悪化しているのが特徴。
    • 完全な閉塞(心筋梗塞)に移行するリスクが非常に高いため、心筋梗塞と合わせて**急性冠症候群(ACS)**と呼ばれ、厳重な管理と迅速な治療が必要となる。

2. 心筋梗塞(Myocardial Infarction)

冠状動脈が完全に閉塞し、血流が途絶えることで、その先の心筋組織が死滅(壊死)する状態。

  • 病態: 虚血が持続し、組織が壊死に陥る(不可逆性)。一度死滅した心筋は元のポンプ機能を回復できない。
  • 原因: 動脈硬化によるプラーク破綻、血栓形成、冠状動脈炎による血行途絶など。
  • 血液検査の特徴: 壊死した心筋細胞から成分が漏れ出すため、**クレアチンキナーゼ(CK/CPK)**やトロポニンといった心筋マーカーの値が上昇する。

3. 関係する危険因子(リスクファクター)

生活習慣病を中心に、動脈硬化を促進させる要因が密接に関係している。

  • 生活習慣・疾患: 喫煙、高血圧、糖尿病、高脂血症(脂質異常症)。
  • 身体的要因: 肥満、運動不足。
  • その他: 遺伝的素因。

4. 虚血性心疾患の比較まとめ

項目労作性狭心症不安定狭心症急性心筋梗塞
血管の状態プラークによる狭窄プラーク破綻・不完全な血栓血栓による完全閉塞
発作の契機運動時・労作時安静時にも発生突然発生
心筋の状態一時的な虚血(可逆性)虚血の悪化(可逆性)壊死(不可逆性)
胸痛の時間数分〜15分程度労作性より長く、頻回30分以上持続(激痛)
ニトロの効果著効する効きにくいことがある無効
血液マーカー上昇しない上昇しないCK、トロポニン等上昇

循環器疾患:中隔欠損症(VSD・ASD)の血行動態

心臓の右側(静脈血)と左側(動脈血)を隔てる壁(中隔)に、生まれつき孔(あな)が開いている疾患。孔の場所によって心室中隔欠損症(VSD)と心房中隔欠損症(ASD)に分けられる。

中でも心室中隔欠損症(VSD)は、先天性心疾患の過半数(5割以上)を占める最もポピュラーな疾患である。

1. 血流のメカニズム:なぜ「左から右」へ漏れるのか

中隔に孔が開いていた場合、血液はどちらからどちらへ流れるか。これは心臓の「圧力(パワー)の差」という物理法則に従う。

  • 左心系は圧が高い: 全身へ血液を押し出す左心室は、分厚い筋肉を持ち、非常に圧力が高い。
  • 右心系は圧が低い: すぐ隣の肺へ血液を送るだけの右心室は、筋肉も薄く、圧力が低い。
  • シャント(短絡)の方向: 孔が開いていると、血液は必ず「圧の高い左側」から「圧の低い右側」へと押し出される(左→右シャント)。

つまり、VSDやASDの単独疾患では、きれいな動脈血が右側へ漏れるだけであり、汚れた静脈血が全身へ回ることはない。したがって、初期段階でチアノーゼ(皮膚が青紫になる症状)が出ることはないのが重要な特徴である。

2. 症状の理由:肺は水浸し、全身は水不足

左から右へ血液が漏れ続けると、循環のバランスが大きく崩れ、以下の2つの問題が発生する。

  • ① 肺血流の増加と容量負荷(肺が水浸し):左から漏れてきた血液が上乗せされるため、右心室から肺へ向かう血液量が異常に多くなる(肺血流量の増加)。肺の血管がパンパンになり、呼吸が苦しくなる(呼吸困難)。また、大量の血液を受け止める心室も引き伸ばされ、負担がかかる(室の容量負荷・心不全)。
  • ② 全身の血流減少(全身が水不足):本来なら大動脈から全身へ行くはずの血液の一部が右側へ「横取り」されるため、全身を回る血液が少なくなる。その結果、栄養や酸素が全身に行き渡らず、**「発育障害」「疲れやすい」**といった症状が現れる。

中隔欠損症(VSD/ASD)まとめ表

項目メカニズム・特徴臨床症状
発生頻度先天性心疾患の5割以上(VSD)最も頻度が高い
血流の方向左心系 → 右心系(左→右シャント)左の圧力が右より高いため
チアノーゼなし(無発赤性)動脈血が右へ漏れるだけだから
肺への影響肺血流量の著明な増加呼吸困難、心不全、肺うっ血
全身への影響全身への拍出量減少発育障害、易疲労感(疲れやすい)

循環器疾患:ファロー四徴症(TOF)〜シャント逆転のメカニズム〜

ファロー四徴症(Tetralogy of Fallot:TOF)は、チアノーゼを伴う先天性心疾患の中で最も頻度が高い疾患である。病名にある「四徴」とは、心臓に生じている以下の4つの形態異常を指す。

1. 疾患を構成する「4つの特徴」

まずは、この疾患を定義づける4つの異常を列挙する。

  1. 心室中隔欠損(VSD): 左右の心室を隔てる壁に大きな孔が開いている。
  2. 大動脈の右方転位(騎乗): 大動脈の出発口が右側へズレて、VSDの孔をまたぐように位置している。
  3. 肺動脈狭窄: 右心室から肺へ向かう出口(肺動脈)が極端に狭くなっている。
  4. 右室肥大: 右心室の筋肉が異常に分厚くなっている。

2. なぜこれらが起きるのか(発生のドミノ倒し)

これら4つの異常は、それぞれ独立して起きたわけではない。胎児期の心臓形成において**「右心室と左心室を分ける壁が、本来の位置より右前方にズレて作られてしまった」**という、たった1つの根本原因からのドミノ倒しである。

  • 壁のズレによる結果(①と②):壁がズレて形成されたため、壁同士が合わさらずに大きな孔(①VSD)が残る。さらに、本来は左心室から出るはずの大動脈が、ズレた壁に乗っかるように右側へ移動してしまう(②大動脈の右方転位)。
  • 押し潰された出口(③):壁が右前方へズレてきたせいで、右心室から肺へ向かう出口(肺動脈)が物理的に押し潰され、極端に狭くなる(③肺動脈狭窄)。※これが病態の重症度を決定づける最大の要因である。
  • 負荷に対する代償(④):狭い出口(肺動脈)に向かって血液を無理やり押し出さなければならないため、右心室に多大な負荷がかかり、筋肉が分厚く鍛え上げられてしまう(④右室肥大)。

3. 【最重要】なぜ「右から左」へ逆流するのか(チアノーゼの理由)

通常の中隔欠損症(VSD単独)であれば、圧力が高いのは左心室であり、血液は「左から右」へ漏れるためチアノーゼは起きない。しかし、ファロー四徴症ではこの大原則が逆転する。

  • 右室圧の異常上昇: 出口である肺動脈が極端に狭い(③)ため、血液を押し出そうとする右心室の圧力が異常に高まり、ついに左心室の圧力を上回ってしまう。
  • 右→左シャントの発生: 全身から右心室に戻ってきた「酸素の少ない黒ずんだ血(静脈血)」は、狭い肺動脈へ進むことができず、抵抗の少ないVSDの孔(①)を通り抜け、真上に口を開けている大動脈(②)へと逃げ込んでしまう。
  • 結果(チアノーゼ): 肺で酸素をもらえなかった汚れた血がそのまま大動脈から全身へ送り出されるため、唇や指先が青紫になる「チアノーゼ」が出現する。

4. 特徴的な症状と画像所見

血流の物理的な異常は、特有の症状と画像所見を生み出す。

  • 無酸素発作と「蹲踞(そんきょ)」の姿勢:泣いたり運動したりして肺動脈がさらに縮むと、大動脈へ逃げる黒ずんだ血が一気に増え、危険な「無酸素発作」を起こす。この時、患児は本能的にしゃがみ込む(蹲踞)。足を折り曲げて下半身の血管を強く圧迫することで、大動脈側の圧力を人為的に高め、右心室からの「逃げ道」を塞いで血液を無理やり肺へ押し込もうとする自己防衛動作である。
  • 木靴型心陰影(Coeur en sabot):胸部単純X線(レントゲン)における典型的なシルエット。
    • つま先の挙上: 右室肥大(④)により、心臓の下部が押し上げられ、心尖部が丸く浮き上がる。
    • 足首の陥凹: 肺動脈が狭く細い(③)ため、本来膨らんでいるはずの左第2弓(肺動脈のシルエット)が内側にくぼんで見える。

ファロー四徴症(TOF)のまとめ

項目メカニズム・理由臨床的意義
4つの特徴①VSD、②大動脈右方転位、③肺動脈狭窄、④右室肥大根本原因は「壁のズレ」
チアノーゼ右室圧が上昇し、汚れた血が大動脈へ逃げるため。右→左シャント
蹲踞(そんきょ)下半身を圧迫し、大動脈への血の逃げ道を塞ぐ動作。無酸素発作時の自己防衛
木靴型心陰影右室肥大による挙上 + 肺動脈の細さによる陥凹。X線の特徴的所見

循環器疾患:動脈硬化症と大動脈弁狭窄症

1. 動脈硬化症の病態メカニズム

動脈硬化症とは、動脈壁へのコレステロールの沈着(プラーク形成)や内膜の肥厚によって、血管が本来の弾性を失い、硬く脆くなった状態である。

この血管の劣化は、大きく分けて**「詰まる(閉塞)」「破れる(破裂)」**という2つの重大なリスクを引き起こす。

① 血栓形成と血流低下(詰まるリスク)

ザラザラになった血管壁には血栓ができやすくなる。

  • 心臓: 冠動脈が詰まり心筋梗塞を発症。
  • 脳: 脳血管が詰まり脳梗塞、慢性的な血流低下で**血管性認知症(痴呆)**を発症。
  • 腎臓: 腎動脈の狭窄で腎不全や、血流不足を補おうとホルモンが過剰分泌されて腎性高血圧症を引き起こす。

② 血管壁の脆弱化(破れるリスク)

弾性を失った血管は、血圧の負荷を吸収しきれない。

  • 動脈瘤の破裂: 血管壁の一部が風船のように膨らんで瘤(大動脈瘤など)を形成し、限界を超えると動脈瘤破裂という致死的な事態を招く。

2. 大動脈弁狭窄症(AS)の4つの治療アプローチ

動脈硬化や加齢による「石灰化」は、心臓の出口にある大動脈弁にも及び、弁が硬く開かなくなる大動脈弁狭窄症(AS)を引き起こす。
大動脈弁が硬く開きにくくなると、心臓の出口に「渋滞」が起きる。これにより、全身への血液供給が不足し、以下の3大症状が出現する。

① 胸痛(狭心痛):
狭い出口から血液を無理やり押し出すため、心筋が異常に肥大し、大量の酸素を必要とする。しかし、冠動脈への血流が不足するため、心筋が酸欠状態になり胸の痛みが生じる。

② 失神(しっしん):
運動時など、脳がより多くの血液を必要とする場面で、狭い弁のせいで脳への血流を十分に増やせず、一過性の脳虚血を起こして意識を失う。

③ 呼吸困難(心不全症状):
出口が詰まって血液が心臓の中に渋滞(うっ血)し、さらにその手前の肺まで血液が逆流するように溜まってしまう。これにより、肺が浮腫んで息苦しくなる。

これに対する治療法は、アプローチ(外科かカテーテルか)と目的(置換か形成か)によって4つに分類される。

【外科手術】(胸を開いて直接アプローチ)

  • AVR(大動脈弁置換術):完全な新品交換(根本治療)石のように硬くなった悪い弁を根元から切り取り、新品の「機械弁」や「生体弁」にそっくり交換する標準治療。確実性は最も高いが、体への負担(侵襲)が大きい。
  • AVP(大動脈弁形成術):丁寧な修理(根本治療)自分の弁を残し、悪い部分を縫い直すなどして形を修復し、使い続ける治療。(※ただし、石灰化してカチカチになる狭窄症(AS)よりも、弁がガバガバになる閉鎖不全症(AR)に対して選択されることが多い。)

【カテーテル治療】(血管から管を通してアプローチ)

  • TAVI(経カテーテル大動脈弁留置術):負担の少ない新品交換(根本治療)胸を開かず、太ももの血管などから折りたたんだ人工弁を運び、内側から押し広げて留置する治療。高齢者やAVRの手術リスクが高い患者に対する画期的な根本治療である。
  • BAV(バルーン大動脈弁形成術):風船での強行突破(一時しのぎ)カテーテルの先端につけた風船(バルーン)で、石灰化した自己弁を内側から無理やり押し広げて血の通り道を作る処置。いずれ再び狭くなるため、全身状態が悪くすぐには根本治療(TAVIやAVR)ができない患者への一時的な救命処置や、手術に向けた**橋渡し(ブリッジ)**として行われる。

大動脈弁狭窄症(AS)治療の比較まとめ表

名称(略語)アプローチ処置の内容目的・位置づけ
置換術(AVR)外科手術悪い弁を切り取り、人工弁に交換ASの標準的な根本治療
形成術(AVP)外科手術自分の弁を残し、綺麗に縫い直す(修理)自己弁を温存する根本治療
TAVIカテーテル血管から人工弁を運び、留置する高リスク患者向けの根本治療
BAVカテーテル風船で硬い弁を無理やりこじ開ける応急処置・手術への橋渡

循環器疾患:大動脈弁閉鎖不全症(AR)

1. 病態メカニズム:扉が閉まらない「逆流」の病

大動脈弁が完全に閉じなくなることで、一度は大動脈へ送り出した血液が、拡張期(心臓が膨らむ時)に再び左心室へと逆戻りしてしまう状態。

  • 容量負荷: 左心室には「全身から戻ってくる血」に加えて「大動脈から逆流してきた血」が溜まるため、左心室がパンパンに膨れ上がる。
  • 左室拡大(求心性肥大ではなく遠心性肥大): 大量の血液を収容するために、心臓の部屋そのものが大きく拡大していく。

2. 臨床症状と特徴

AR特有の血行動態は、血圧の数値や身体所見に顕著に現れる。

  • 脈圧の増大:収縮期(出す時)は大量の血を送るので最高血圧は上がるが、拡張期(溜める時)は血が逆流して大動脈が空っぽに近づくため、最低血圧が極端に下がる。結果として、最高と最低の差(脈圧)が非常に大きくなる。
  • 跳躍脈(水錘脈):脈が「ガツン」と強く触れたかと思うと、すぐに「スッ」と消えるような独特の感触(Corrigan脈)。
  • 心不全症状:左心室の容量が限界を超えると、血液が肺へと渋滞し、呼吸困難や**浮腫(むくみ)**が出現する。

3. ARの治療アプローチ

ARの治療も「置換」か「形成」かが基本となるが、ASとは適応のニュアンスが異なる。

  • AVR(大動脈弁置換術):壊れた弁を取り除き、人工弁に交換する根本治療。ARにおいても最も一般的である。
  • AVP(大動脈弁形成術):ARにおいてこそ、この「形成術(修理)」が真価を発揮する。弁が石灰化してボロボロになるASと違い、ARは弁の形が歪んだり、支えが弱くなったりして起きることが多いため、自分の弁を縫い合わせて補強する「修理」が成功しやすい。自己弁を温存できるため、術後の血栓リスク(ワーファリン服用)を抑えられるメリットがある。
  • TAVI(経カテーテル人工弁留置術):※注意:現在のところ、TAVIは主に「狭窄症(AS)」がメインの適応である。ARは弁の周囲に石灰化が少ないため人工弁を固定しにくく、ASほど一般的ではない(ただし、一部の症例や研究段階では行われている)。

AS(狭窄)と AR(閉鎖不全)の比較まとめ表

項目大動脈弁狭窄症(AS)大動脈弁閉鎖不全症(AR)
病態の本質出口が狭い(通りにくい)扉が閉まらない(逆流する)
心臓への負荷圧負荷(高い圧力が必要)容量負荷(血液量が過剰)
左心室の変化壁が分厚くなる(肥大)部屋が大きく広がる(拡大)
代表的症状胸痛、失神、呼吸困難脈圧の増大、跳躍脈、呼吸困難

循環器疾患:心不全(左心不全と右心不全)

1. 心不全の本態

心臓というポンプが弱ることで、血液の「送り出し」が滞ると同時に、手前の臓器で血液が「渋滞(うっ血)」を起こす病態である。

2. 左心不全(肺の渋滞)

全身へ血液を送る「左心系」の機能が低下した状態。

  • 主な原因: 虚血性心疾患(心筋梗塞など)高血圧性心疾患、大動脈弁膜症。
  • メカニズムと症状:左心室が血液をさばききれないため、その手前にある「肺」で血液が渋滞する(肺うっ血)。
    • 呼吸困難・息切れ: 肺の血管から水分が染み出し、ガス交換が阻害されるため。
    • 起坐呼吸(きざこきゅう): 横になると肺のうっ血がひどくなるため、座らないと息ができない状態。

3. 右心不全(全身の渋滞)

肺へ血液を送る「右心系」の機能が低下した状態。

  • 主な原因: 肺塞栓症肺性心(肺の病気が原因で心臓に負担がかかること)、左心不全からの波及。
  • メカニズムと症状:右心室が血液をさばききれないため、その手前にある「全身の静脈」で血液が渋滞する。
    • 下肢の浮腫(むくみ): 重力で下半身の静脈圧が上がり、水分が組織へ漏れ出すため。
    • 肝腫大(肝臓の腫れ): 肝静脈から血液が戻れず、肝臓が血液でパンパンに膨らむ。
    • 頸静脈怒張: 首の静脈が浮き出る。

4. 左心不全と右心不全の比較まとめ

「どこの手前で渋滞(うっ血)が起きているか」を考えると、症状が導き出せる。

項目左心不全右心不全
故障部位左心室・左心房右心室・右心房
主な原因虚血性心疾患、高血圧肺塞栓、肺性心、左心不全の続発
うっ血の場所全身(体循環)
代表的症状①呼吸困難・息切れ下肢の浮腫(むくみ)
代表的症状②起坐呼吸、湿性ラ音肝腫大、頸静脈怒張
代表的症状③ガス交換不全腹水、消化器症状

循環器・内分泌疾患:高血圧症の分類と病態

血圧とは、心臓から送り出された血液が血管の壁を押す力である。これが慢性的に高い状態が続くと、血管壁がダメージを受け、前述の「動脈硬化」を急速に進行させる最大の危険因子となる。

1. 血圧の診断基準

  • 高血圧症: 最高血圧(収縮期)140 mmHg 以上、あるいは最低血圧(拡張期)90 mmHg 以上。
  • 低血圧症: 最高血圧 100 mmHg 以下(※明確な基準値は確立されていないが、一般的にこの数値を下回ると定義されることが多い)。

2. 高血圧の2大分類

高血圧は、その「原因が特定できるか否か」によって大きく2つに分類される。

① 本態性(ほんたいせい)高血圧症(全体の約80%)

  • 特徴: 明確な原因疾患が特定できない、一般的な高血圧。
  • 要因: 遺伝的素因(体質)と、生活習慣(塩分の摂りすぎ、肥満、運動不足、ストレス、喫煙など)が複雑に絡み合って発症する。

② 二次性(にじせい)高血圧症(全体の約20%)

  • 特徴: 体のどこかに**「血圧を上げる明確な原因となる病気」**が隠れている高血圧。
  • 臨床的意義: 原因となっている病気(腫瘍など)を手術などで治療すれば、高血圧そのものも完治する可能性が高い。そのため、若年者の高血圧や薬が効かない重症高血圧を見た場合は、必ずこの二次性を疑ってCTやMRI検査を行う。

3. 【超重要】二次性高血圧症の代表的な原因疾患

二次性高血圧を引き起こす疾患は、主に「腎臓」と「内分泌(ホルモン)」の異常である。なぜ血圧が上がるのか、そのメカニズムとセットで紐付ける。

  • 腎動脈狭窄症(腎血管性高血圧):
    • メカニズム: 動脈硬化などで腎臓へ向かう血管(腎動脈)が狭くなると、腎臓は「全身の血圧が下がって血が来なくなった!」と勘違いする。その結果、血圧を上げるホルモン(レニン)を大量に放出し、強制的に全身の血圧を上昇させてしまう。
  • 原発性アルドステロン症:
    • メカニズム: 副腎(腎臓の上にある臓器)に腫瘍などができ、血圧を上げるホルモン(アルドステロン)が異常分泌される。体内に塩分と水分を過剰に溜め込むため、血管内の血液量がパンパンになり血圧が上がる。
  • 褐色細胞腫(かっしょくさいぼうしゅ):
    • メカニズム: 副腎髄質にできる腫瘍。興奮ホルモンである「アドレナリン・ノルアドレナリン」を大量放出するため、血管が異常に収縮し、心拍数も激増して極端な高血圧を引き起こす。
  • クッシング症候群:
    • メカニズム: 副腎皮質からコルチゾール(ストレスホルモン)が過剰分泌される疾患。水分の貯留や血管の収縮反応を高め、高血圧や特有の肥満(中心性肥満・満月様顔貌)をきたす。
  • 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など):
    • メカニズム: 甲状腺ホルモンが過剰になり、全身の代謝が異常に活発化(常に全力疾走しているような状態)する。心臓のポンプ機能が過剰に働き、最高血圧が著しく上昇する。

血液・脳血管疾患:血友病ともやもや病

1. 血友病(Hemophilia)

血液を固めるために必要な「血液凝固因子」が生まれつき不足しているため、出血しやすく、一度出血すると止まりにくい疾患。

  • 遺伝形式と性差: X染色体に関連した「伴性劣性(はんせいれっせい)遺伝」という形式をとる。男性はX染色体を1本しか持たないため、この異常があると発症する。女性はX染色体が2本あり、片方が正常であれば発症しない(保因者となる)ため、圧倒的に男性に多いのが特徴。
  • 分類:
    • 血友病A: 第Ⅷ(第8)凝固因子が不足。
    • 血友病B: 第Ⅸ(第9)凝固因子が不足。
  • 主な症状: ぶつけた覚えがないのに起こる「関節内出血」や、筋肉内出血などが繰り返される。

2. もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)

脳の底にある太い血管(ウィリス動脈輪)が、原因不明のまま徐々に細くなり、最終的に詰まってしまう進行性の疾患。日本人に多いことで知られている。

  • 病態メカニズム:代償としての「もやもや血管」 メインの動脈が詰まると、脳は深刻な血流不足に陥る。それを補う(代償する)ために、本来は細い血管が異常に発達して網目状の「側副路(そくふくろ)」を作る。
  • 名前の由来: 血管造影検査を行うと、この発達した細い血管が、タバコの煙が「もやもや」と立ちのぼるように見えることから命名された。
  • 臨床症状と注意点:
    • 小児: 過換気(熱いラーメンを吹く、笛を吹く、激しく泣くなど)によって脳血管が収縮し、一過性脳虚血発作(脱力など)を起こしやすい。
    • 成人: 無理に発達した「もやもや血管」は非常に脆いため、破綻して脳出血を引き起こすリスクが高い。

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