[【消化器系】上腹部実質臓器の解剖:肝臓・胆管系・脾臓の立体配置]

上腹部に位置する肝臓、胆管系、脾臓は、複雑な脈管系(動脈・静脈・門脈・胆管)によって密接に連携している。放射線画像診断においては、これらの脈管をランドマークとして実質臓器の構造を同定するスキルが必須となる。

【基礎解説】:各臓器の解剖学的基本構造と脈管系

まずはこの図を描けるようになるとこからスタートする。

  • 肝臓(Liver)
    • 位置と形態: 右上腹部の大部分を占める人体最大の実質臓器である。横隔膜の直下に位置し、下面(臓側)は右腎、結腸右曲、十二指腸などと接する。
    • 表面の区分: 鎌状間膜を境界として、右側の巨大な右葉と、左側の小さな左葉に大別される。下面からは方形葉と尾状葉が確認できる。
    • 二重血流支配: 肝臓に流入する血管は2系統存在する。酸素を供給する固有肝動脈(約20〜30%)と、消化管から吸収した栄養素を運ぶ門脈(約70〜80%)である。
    • 流出血管: 肝臓内の血液は、右・中・左の肝静脈に集められ、肝臓の背面(頭側)で下大静脈(IVC)へと直接還流する。
  • 胆嚢および胆管系(Gallbladder and Biliary Tract)
    • 胆汁の経路(超重要): 肝細胞で生成された胆汁は、以下の順序で排泄される。
      1. 右肝管・左肝管(肝門部で合流)
      2. 総肝管
      3. 胆嚢管(胆嚢への出入り口)との合流
      4. 総胆管
      5. 主膵管と合流し、大十二指腸乳頭(ファーター乳頭)へ開口。
    • 胆嚢の機能と位置: 肝臓下面の胆嚢窩に付着する洋梨状の袋であり、胆汁の一時的な貯留と濃縮を行う。底部、体部、頸部に区分される。
  • 脾臓(Spleen)
    • 位置と形態: 左上腹部(左季肋部)に位置し、胃の大弯側後方、左腎の上外側に接する。握り拳大の実質臓器である。
    • 機能と脈管: 古くなった赤血球の破壊や免疫機能を担う。腹腔動脈から分岐した脾動脈が流入し、流出する脾静脈は膵臓の背側を伴走して門脈へと注ぐ。

【補足・要点】:画像診断における重要指標と臨床的意義

  • 門脈系の解剖
    • 門脈は、消化管と脾臓の静脈血を集めて肝臓へ送る特殊な血管系である。この合流形態はCT横断像の読影において極めて重要なランドマークとなる。
    • 門脈本幹の構成: 上腸間膜静脈(SMV)と脾静脈が膵頸部の背面で合流して形成される。
    • 下腸間膜静脈(IMV)の合流: 脾静脈に合流するパターンが最も多いが、SMVに合流するバリエーションも存在する。
  • 造影CTにおける各臓器の濃染パターン
    • 肝臓の多時相撮影: 肝細胞癌(HCC)などの診断では、動脈相(早期)で腫瘍が濃染し、門脈相〜平衡相(後期)で周囲の正常肝実質よりも低吸収に抜ける「ウォッシュアウト(washout)」現象が重要な所見となる。二重血流支配を理解していなければ、この撮影タイミングの意味を把握できない。
    • 脾臓の早期不均一濃染: 造影CTの早期(動脈相)において、脾臓は特徴的な「まだら状(斑状・唐草模様)」の不均一な造影効果を示す。これは異常ではなく、赤髄と白髄の血流動態の違いによる正常な生理的反応(アーチファクトの一種)であるため、病変と誤認してはならない。

【発展コラム】:臨床現場で必須となる「クイノーの肝区域分類」

国家試験において肝区域(S1〜S8)の同定が直接問われることは稀であるが、臨床現場において肝腫瘍の局在診断や手術支援画像を作成する際、クイノー(Couinaud)分類は放射線技師にとって必須の共通言語となる。就職後の実務に向けたアドバンス知識として整理する。

  • 分類の基準(門脈と肝静脈): 肝臓を門脈の支配領域に基づいて8つの区域に分類する。CT横断像では、3本の肝静脈を垂直方向の境界線とし、門脈の左右分岐部を水平方向の境界線として各区域を同定する。
  • 垂直方向の境界(3本の肝静脈):
    • 中肝静脈: 右葉と左葉の境界(カントリー線にほぼ一致)。
    • 右肝静脈: 右葉を前区域(S5, S8)と後区域(S6, S7)に分ける。
    • 左肝静脈: 左葉を内側区域(S4)と外側区域(S2, S3)に分ける。
  • 水平方向の境界(門脈本幹):
    • 頭側(上部): S7, S8, S4, S2
    • 尾側(下部): S6, S5, S3
  • 尾状葉(S1): 下大静脈の腹側、門脈本幹の背側に位置する独立した区域である。他の区域とは異なり、静脈血が直接下大静脈へ還流するという特徴を持つ。

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