[【脳・神経系】脳血管疾患:脳梗塞・脳出血・くも膜下出血の鑑別]

脳梗塞

病態の定義とメカニズム

脳を栄養する動脈(脳血管)に狭窄(血管が細くなること)や閉塞(血管が完全に詰まること)が生じることで発症する。その血管から血液供給を受けていた脳組織が血流不足(虚血)に陥り、結果として脳細胞が壊死する疾患である。

責任血管の概念

数ある脳血管の中で、その脳梗塞を引き起こす直接の原因となった特定の閉塞・狭窄血管のことを「責任血管」と定義する。

支配領域の法則と画像診断の繋がり

脳梗塞の病変部は、ランダムに広がるのではなく、個々の責任血管が本来血液を供給している解剖学的な範囲(支配領域)に厳密に一致して発生する。放射線技師としてCT(低吸収域として描出)やMRI(DWIやFLAIRなどで高信号域として描出)の画像から「どの領域が虚血に陥っているか」を正確に把握することで、逆算して責任血管を特定することが可能となる。

脳梗塞におけるMRI拡散強調画像(DWI)の原理と所見

DWI(拡散強調画像)の基本原理

• 正常な脳組織では、水分子は細胞の外(細胞外液腔)を自由に動き回っている(自由拡散)。

• 脳梗塞(虚血)に陥ると、細胞のエネルギー代謝が破綻し、細胞内に異常な水分が引き込まれて細胞自体がパンパンに腫れ上がる(細胞性浮腫・細胞腫脹)。

• 細胞が腫張することで細胞間の隙間が極端に狭くなり、水分子が物理的に動けなくなる。この状態を拡散制限と呼ぶ。DWIは、この「水分子の動きにくさ(拡散制限)」を高感度に捉えて画像化する撮像法である。

画像所見と臨床的意義

• 拡散制限が起きている急性期脳梗塞の病変部は、DWIにおいて**高信号(白く)**描出される。

• 脳梗塞の発症超急性期(数十分〜数時間)という極めて早い段階から異常を捉えることができるため、早期診断において最も重要なシーケンス(撮像法)である。

• 横断像(アキシャル)において、中大脳動脈(MCA)の閉塞が原因である場合、基底核や側頭葉・頭頂葉の広範な領域に一致した高信号域が確認できる。

頭蓋内血腫の種類と画像所見

硬膜外血腫(EDH)

• 出血部位:頭蓋骨と硬膜の間。

• 発症メカニズム:主に強い頭部外傷に伴う頭蓋骨骨折に合併して起こりやすい。硬膜は頭蓋骨(特に縫合部)に強く張り付いているが、骨折などで動脈(中硬膜動脈など)が破綻すると、頭蓋骨と硬膜の間に血液が溜まり、硬膜が内側へ押し剥がされる。

• CT画像所見:血腫が広範囲に広がれず局所で膨らむため、**「凸レンズ状(紡錘形)」**の高吸収域として描出される。

硬膜下血腫(SDH)

• 出血部位:硬膜とくも膜の間。

• 発症メカニズム:硬膜とくも膜の間は本来くっついているが固定は弱い。頭部への衝撃等により静脈(架橋静脈)が破綻すると、血液は硬膜の内面に沿って比較的容易に広く広がることができる。

• CT画像所見:頭蓋骨の内縁に沿って広がるため、**「三日月型(半月状)」**の高吸収域として描出される。

くも膜下出血(SAH)

発症メカニズムと原因

• 脳を包む「くも膜」と「軟膜」の間の空間(くも膜下腔)に出血が生じる病態である。

• 原因の約80%は脳動脈瘤の破裂によるものであり、国家試験においても最重要の発生要因として扱われる。

• その他、脳動静脈奇形(AVM)や外傷などが原因となることもある。

CT画像所見の特徴

• くも膜下腔(脳裂、脳溝、基底槽)に血液が流れ込むため、本来黒く写る髄液スペースが**高吸収域(白)**として描出される。

• 特に脳底部の基底槽に血液が貯留し、五角形や六角形の星型に見える所見は**「スター(星型)」**サインと呼ばれ、診断の決め手となる。

読影のポイント:脳室内出血の合併

• 出血の勢いが強い場合や、脳室内へ穿破した場合には、脳室内出血を合併する。

• 脳室(側脳室後角など)に血液が溜まると、重力に従って血液と髄液が層を作る「ニボー(鏡面形成)」が見られることがある。

好発部位とのリンク:脳動脈瘤はウィリス動脈輪の分岐部(前交通動脈、内頸動脈-後交通動脈分岐部、中大脳動脈分岐部など)に好発する。画像でどこに最も厚い血腫があるかを見ることで、破裂部位を予測できる。

合併症の時系列:発症直後の「再出血」、数日後の「脳血管攣縮(スパズム)」、数週後の「正常圧水頭症」の3段階は、放射線技師が経過観察のCT/MRIを撮る上で必須の知識である。

脳室内出血(IVH:Intraventricular Hemorrhage)

病態と発生機序

• 脳室(側脳室、第三脳室、第四脳室)の内部に出血が貯留する病態である。

二次性脳室内出血(頻出):高血圧性脳出血(視床出血や尾状核頭部出血など)やくも膜下出血が、脳室壁を突き破って脳室内へ流れ込む「脳室内穿破」によって起こることが多い。

一次性脳室内出血:脳室内の脈絡叢血管の破綻や、脳室壁付近の血管奇形が直接の原因となる稀なケースを指す。

脳実質内出血(高血圧性脳出血)

発症メカニズムと原因

• 脳実質(脳組織の内部)の血管が破綻し、組織内に出血する病態である。

• 最大の原因は**「高血圧」**である。長期間の高血圧に晒されることで、脳深部を栄養する細い血管(穿通枝)に微小な動脈瘤(シャルコー・ブシャール微小動脈瘤)や血管壊死が生じ、これが血圧の負荷で破裂することにより発症する。

CT画像所見の特徴と根拠

• 出血直後の急性期血腫は、血液中のヘモグロビン(タンパク質)成分がX線を強く吸収するため、周囲の正常な脳実質よりも明瞭な**高吸収域(白)**として描出される。

高血圧性脳出血の好発部位と割合(※超重要)

• 脳深部を走行する「穿通枝」は、太い主要動脈から直角に分岐するため、高い血圧の物理的ダメージ(血流の勢い)を直接受けやすく、出血の好発部位となる。

1. 被殻(40%):中大脳動脈の穿通枝(レンズ核線条体動脈)が破綻する。全体で最も頻度が高い。

2. 視床(30%):後大脳動脈などの穿通枝が破綻する。近接する脳室内へ血液が流れ込む「脳室内穿破(二次性脳室内出血)」を合併しやすい。

3. 皮質下(10%):大脳皮質の下の白質に生じる。

4. 小脳(10%)

5. 脳幹(10%):特に橋(きょう)に好発し、重篤な状態に陥りやすい。

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